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アングル:米財務省声明は円安けん制か、戸惑う市場 153円が警戒ライン

2025年10月28日(火)22時16分

日米財務相会談に関する米財務省の声明を受け、為替市場で戸惑いの声が広がっている。(2025年 ロイター)

Atsuko Aoyama

[東京 28日 ロイター] - 日米財務相会談に関する米財務省の声明を受け、為替市場で戸惑いの声が広がっている。足元で進む円安に、高市早苗政権からの強いけん制が見当たらない中で、円安を促したアベノミクスの復活にくぎを刺すかのような文言が盛り込まれたためだ。円安に対する日米の温度差を測りかねる状況で、ドル153円から上方向はひとまず攻めづらくなったとの声もある。

<米国側の圧力を意識>

米財務省が28日、前夜に実施した日米財務相会談の内容に関する声明を発出。ベセント米財務長官の発言として、アベノミクス導入から12年経過し、「状況が大きく変化した点」を挙げ、過度な為替変動の防止に「健全な金融政策」が果たす役割を強調した。

この声明について市場では、財政拡張的、金融緩和的な政策を志向している高市政権に、アベノミクス的な政策の再開に慎重になるよう、くぎを刺したとの受け止めが出ている。

声明に記された「状況」の大きな変化とは、デフレからインフレ方向へと移行してきた経済環境のことだろうと、あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジストは話す。これまでにベセント長官は、日銀が利上げを進めれば円安は是正されるといった趣旨の発言をしており、「健全な金融政策」が果たす役割とはそのことを指すと諸我氏は解釈している。

1ドルが80円台で、経済がデフレ下にあったアベノミクス開始当時と、1ドル150円台で物価上昇率が3%近辺の現在とでは、マクロ環境は大きく異なる。アベノミクス的な政策を進めることで一段の円安となることは、ドル安を志向する米国にとって都合のいい話ではない。

声明の発表後、ドルは152円半ばから徐々に水準を切り下げ、152円を割り込む場面があった。「米国側の圧力」(三井住友銀行の鈴木浩史チーフ為替ストラテジスト)の存在を、市場が意識したという。

市場にとっては、不意打ちになった側面もある。片山さつき財務相は27日、記者団に対し、金融政策は「直接的な話題にならなかった」とし、為替についても「機微にわたる話は出なかった」と話しており、市場は警戒を緩めていた。

<明確でない高市政権のスタンス>

高市政権の為替に関するスタンスが、市場で明確に理解されていないことが、日米の「温度差」を際立たせている側面もありそうだ。

自民党総裁選での高市氏の勝利以降、ドル/円相場は急騰したが、政権移行期を含め、為替変動に言及する場面では、為替介入に対する市場の警戒感を高める効果が期待される「投機的」動きや「憂慮」などの強いけん制の文言は聞かれなかった。

加えて、片山財務相からの発言は「為替はファンダメンタルズを反映して安定的に推移すべき」といった原則論にとどまっている。

こうした状況について、新政権が前政権より「円安けん制トーンを弱めているシグナル」(みずほ証券の山本雅文チーフ為替ストラテジスト)との受け止めが聞かれる。7月末に150円超に急伸した後、8月初めに3.5円急落した際には、加藤勝信財務相(当時)からは「投機的動向」、「憂慮」などの文言が発せられていた。

ただ、日本政府のこの姿勢について「最後の手段である為替介入に出にくい環境下で、言葉の力を有効に生かそうとしているためではないか」(SBIFXトレードの上田真理人取締役)との指摘もある。強いトーンの文言を温存しているとの見方だ。

日本政府の円安に対するスタンスについて、市場で見方が分かれる中、米国サイドの発信が、ドル/円の上値を抑制する可能性がある。

米声明が示したのは、アベノミクスの再来を疑問視する米国の考えだとみずほ証券の山本氏は指摘。今後のドル/円の行方は今週の日銀の金融政策決定会合次第だとの見方を示す。仮に10月会合で利上げが実施されれば、ドルは150円を割る可能性がある一方、なければ155円に向けて上昇するとみており、その場合、「米国サイドからより強いけん制が来る可能性がある」と話している。

米国サイドからの円安けん制が示唆されたことで、ドルは上方向で直近の節目に当たる「153円より上は攻めづらくなった」と、あおぞら銀の諸我氏は話している。

ロイター
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