ニュース速報
ビジネス

アングル:自動車業界がレアアース確保に躍起、中国の輸出規制発動控え

2025年10月26日(日)07時32分

 10月21日、世界中の自動車メーカーが重要素材のレアアース(稀土類)を大慌てで探し回っている。写真はモナザイトの標本。14日、北京で撮影(2025年 ロイター/Maxim Shemetov)

Nick Carey Christina Amann

[ロンドン/ベルリン 21日 ロイター] - 世界中の自動車メーカーが重要素材のレアアース(稀土類)を大慌てで探し回っている。中国の輸出規制発動前に在庫を確保したいためだが、レアアース生産は中国が圧倒的なシェアを占めており、自動車メーカー幹部は部品不足や工場の操業停止が起きかねないと懸念している。

レアアース磁石は自動車のサイドミラー、スピーカー、オイルポンプ、ワイパー、燃料漏れ検知センサーやブレーキセンサーなどさまざまな部品のモーターに使われており、電気自動車(EV)ではさらに重要度が高い。

レアアースは米中合意により供給リスクが一時的に回避されたものの、今年初めに実施された同様の規制で在庫は払底した。中国政府は輸出ライセンスの取得を一段と厳格化。以来、中国による輸出規制が劇的に拡大し、メーカーは世界的なレアアース供給不足に直面している。

コンサルティング会社アリックス・パートナーズの推計によると、中国は世界のレアアース採掘の最大70%、精製能力の85%、レアアースの合金と磁石の生産の約90%を握る。中国の新たな輸出管理リストにはイッテルビウム、ホルミウム、ユウロピウムなど、自動車製造に使われる元素が含まれている。

ドイツの金属粉末供給会社NMDのナディーン・ライナー最高経営責任者(CEO)は「状況は非常に緊迫している。顧客は中国以外ならどこからでもレアアースを調達したいと考えている」と話す。

ライナー氏によると、スウェーデンなどの国には多くのレアアース資源が存在するが、鉱山や精製能力が整っていない。また、重稀土類レアアースに関しては中国が世界の精製能力の99.8%を支配し、他の供給源はほぼ存在しない。「当社はほぼ完売状態で、在庫も限られている」という。

レアアースは中古自動車からリサイクルすることも可能だが、この産業はまだ発展途上だ。

<既に在庫が枯渇>

中国の供給業者が11月8日の輸出管理実施前に新規注文を履行できたとしても、欧州への海上輸送には45日ほどかかり、自動車業界はレアアースの供給ボトルネックという難題に直面している。中国はまた、リチウムイオン電池や電池素材の輸出にも制限を設けており、EVの部品供給への懸念が高まっている。

さらに先週は中国とオランダの間で、オランダの半導体メーカー、ネクスペリアを巡る知的財産権紛争が発生。同社が自動車部品向けに大量の半導体を供給していることから、工場が操業停止に追い込まれるとの不安が高まった。自動車メーカーは米関税の影響という課題にも直面しているが、レアアースを通じて業界を支配する中国の影響力は最も厄介な問題の1つだ。

トヨタ自動車北米部門の購買・サプライヤー開発担当グループのライアン・グリム副社長は「中国は2カ月で自動車業界全体を停止させることができる」と述べた。現代自動車向けの磁石サプライヤーの幹部は、今年初めに在庫を積み増したものの、「ほとんどは既に枯渇し、供給がひっ迫している」と話した。

中国のレアアース輸出業者の中には、10月9日に新たな輸出規制が発表された直後に海外顧客から注文が殺到した企業もあると、業界関係者3人がロイターに明かした。

<脱レアアースモーター>

自動車メーカー各社はレアアースへの依存を減らすための取り組みを進めている。

ゼネラル・モーターズ(GM)や主要サプライヤーのZF、ボルグワーナーなどは、レアアースの使用量が少ないか、もしくは全く使わないEVモーターを開発中で、BMWとルノーは既にレアアースを使用しないモーターの製造に乗り出した。また自動車メーカー各社は次世代EV向けのレアアース不使用モーターの改良にも力を入れている。

しかし業界専門家によると、脱レアアースモーターの実用化にはまだ数年かかり、中国以外で新たなレアアース鉱山や精製施設を開発する取り組みも数年先になるとみられる。しかも、中国はレアアースの価格を低く抑えることでこうした動きを妨害する恐れがある。

サプライチェーン専門会社SCインサイツの共同創業者アンディ・レイランド氏は、中国は価格競争で他国を打ち負かすことに注力しており、今後もその戦略を続けると予想。「中国は常に価格を下げて競合相手を圧倒できる」と述べ、自動車メーカーはレアアース磁石を使用した安価なモーターがあるにもかかわらず高価な代替部品を採用するのは難しいのではないかとの見方を示した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、ロシアへの追加制裁準備 欧州にも圧力強化望む=

ワールド

「私のこともよく認識」と高市首相、トランプ大統領と

ワールド

米中閣僚級協議、初日終了 米財務省報道官「非常に建

ワールド

対カナダ関税10%引き上げ、トランプ氏 「虚偽」広
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中