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アングル:テスラの米リピーター率、マスク氏政治活動で急落

2025年08月05日(火)09時00分

8月4日、米電気自動車(EV)のテスラは米国で何年にもわたって他の大手自動車ブランドより米国でのリピーター率が高かったものの、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が昨年夏にドナルド・トランプ大統領への支持を表明後に急落したことが、S&Pグローバル・モビリティの調査で分かった。写真は3月、ホワイトハウスで記者団の取材に応じるトランプ米大統領(右)とマスク氏(2025年 ロイター/Kevin Lamarque)

Chris Kirkham

[ロサンゼルス 4日 ロイター] - 米電気自動車(EV)のテスラは米国で何年にもわたって他の大手自動車ブランドより米国でのリピーター率が高かったものの、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が昨年夏にドナルド・トランプ大統領への支持を表明後に急落したことが、S&Pグローバル・モビリティの調査で分かった。

ロイターに独占的に提供されたデータによると、テスラ顧客のリピーター率は2024年6月にピークに達し、新車購入を検討していたテスラ所有世帯の73%が再びテスラを購入した。

しかし、マスク氏がトランプ氏への支持を表明した昨年7月からリピーター率は急落。マスク氏が政府効率化省(DOGE)のトップに就いて数千人の公務員の解雇を始めたことで今年3月には49.9%と、業界平均をわずかに下回る水準まで落ち込んだ。

データを入手できる中で最新の5月には57.4%と業界平均を上回り、トヨタ自動車とほぼ同水準になった。ただ米ゼネラル・モーターズ(GM)のブランド「シボレー」や米フォード・モーターには及ばない水準だ。

S&Pのアナリスト、トム・リビー氏は、顧客のリピーター率で圧倒的な首位だった企業が「これほど短期間で急落した例は見たことがない」と語った。

テスラは今月4日、マスク氏に対して時価約290億ドルに相当する9600万株を付与し、マスク氏を経営トップにとどめるための措置としている。だが一部のアナリストは、テスラのリピーター率が急落したタイミングを見ると、マスク氏の政治活動を受けて環境意識の高い顧客層が離反したことを示唆しているとの見方を示す。モーニングスターのアナリスト、セス・ゴールドスタイン氏は「彼ら(もともとのテスラ購入者)が民主党寄りの傾向があれば、テスラ以外のブランドも検討するかもしれない」と話した。

テスラの製品ラインナップは登場から歳月がたち、GMや韓国の現代自動車、ドイツのBMWなどが売り出している多様なEVとの競争が激化している。テスラが2020年以降に発売した唯一の新型車である三角形の外観をした「サイバートラック」は、マスク氏が期待していた年間数十万台の販売を下回って失敗に終わった。

テスラのバイブハブ・タネジャ最高財務責任者(CFO)は4月の決算説明会で、販売不振について「当社のブランドと従業員に対する破壊行為や、不当な敵意による負の影響」を受けたと指摘したほか、「モデルY」の改良型を生産するために工場を再編した際に「数週間の生産停止期間」があったとも言及。マスク氏は「マクロ経済の問題がなければ、需要の減少は見込まれない」と主張した。

S&Pのデータによると、テスラの販売は世界的に減少傾向にあり、2025年1―5月に米国で前年同期より8%減った。マスク氏の政治活動への反発が特に強い欧州では25年上半期に33%減った。

CFRAリサーチでテスラの動向を追っているアナリストのギャレット・ネルソン氏はマスク氏の政治活動強化について、テスラが中国系EVメーカーや伝統的な自動車メーカーとの競争が激化する中での「非常に悪いタイミング」だったと指摘。テスラの最大の懸念として市場シェアの喪失と、「ブランドが受けた打撃の回復策」を挙げた。 

<リピーター率の急落>

顧客のリピーター率は自動車業界で注目されている指標で、S&Pのリビー氏は競合他社から新規顧客を獲得するよりも、既存顧客を維持する方が「はるかにコストがかかる」と指摘する。

米国で2021年第4・四半期から24年第3・四半期までの四半期ではいずれもテスラ車の所有世帯の6割超がテスラに買い換えており、この間に他に6割を超えていたのはフォードだけで、それも1回の四半期だけだった。

S&Pのデータでは、どのブランドやモデルが他のブランドから顧客を奪い、どのブランドが顧客を失っているのかも判明した。

24年7月までの4年間平均で、テスラは1世帯の顧客を失っても、5倍の新規顧客を獲得しており、他のブランドを圧倒していた。2位の現代自動車の高級車ブランド「ジェネシス」は1世帯を失っても2.8倍を獲得し、韓国の起亜は1.5倍、現代自動車の「ヒュンダイ」ブランドは1.4倍をそれぞれ獲得した。フォード、トヨタ、ホンダは獲得した新規世帯が失った世帯数を下回った。

テスラへの平均顧客流入は、リピーター率が下回り始めた24年7月以降に低下した。今年2月以降にテスラが獲得したのは失った世帯の2倍未満で、これは同社としては過去最低水準だ。

リビー氏は「データは、テスラへの純流入が鈍化していることを明確に示している」と話す。

テスラからの顧客流入がテスラへの流出を上回っているのは、米EVメーカーのリビアン・オートモーティブやスウェーデンの高級EVメーカーのポールスター、ドイツの高級車メーカーのポルシェ、GMの高級車ブランド「キャデラック」だ。

テスラに投資家するザックス・インベストメント・マネジメントの顧客ポートフォリオマネージャー、ブライアン・マルベリー氏は、テスラの長期的な利益には懸念していないとし、同社がロボタクシー(自動運転タクシー)の運行や自動運転技術のライセンス供与を通じてばく大な利益を上げることを期待していると説明した。

テスラは6月に米南部テキサス州オースティンでロボタクシーの小規模実験を実施し、選りすぐりの愛好家やインターネット界での著名人に乗車体験を提供したものの、一般人への乗車機会は設けていない。もしテスラがこの技術の拡大に成功した場合、マルベリー氏は「テスラはもはや車やトラックを販売する必要がなくなるという主張が成り立つようになる」と語った。

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