アングル:マスク氏が政権離脱、苦境のテスラとスペースXに集中へ

5月29日、 米実業家イーロン・マスク氏(写真)がトランプ米政権(共和党)を去ることにより、投資家はマスク氏が自身の帝国の事業に再び集中することに期待を寄せるだろう。ウィスコンシン州グリーンベイで開かれた州選挙集会で4月撮影(2025年 ロイター/Vincent Alban)
Aditya Soni Kritika Lamba
[29日 ロイター] - 米実業家イーロン・マスク氏がトランプ米政権(共和党)を去ることにより、投資家はマスク氏が自身の帝国の事業に再び集中することに期待を寄せるだろう。同氏が経営する電気自動車(EV)大手テスラは販売不振と格闘中で、宇宙企業スペースXは直近のロケット打ち上げが失敗に終わった。
マスク氏は28日に政権からの離脱を発表し、テスラの投資家に安堵をもたらした。マスク氏がトランプ氏や欧州の右翼政党を支持したことに対する反発もあり、テスラの株価は今年に入って低迷。マスク氏が連邦政府の支出削減を担う「政府効率化省(DOGE)」の責任者を担ったことも物議を醸した。
マスク氏は複数の課題に直面する一方、多くのアドバンテージも得て自らの帝国に戻ることになる。テスラの売り上げ減少は投資家の忍耐力を試しているが、スペースXとそのインターネット接続サービス「スターリンク」はそれぞれ市場を支配しており、商業目的の打ち上げや衛星通信でデフォルトの選択肢となることも多い。外国政府によるスターリンクの利用も増えており、マスク氏とトランプ氏との緊密な関係ゆえに規制当局の承認もスムーズに進んできた。
しかし、トランプ氏との関係には批判も高まっていた。マスク氏は政権離脱を発表する直前、議会で審議中の税制改革法案を批判。また、昨年はトランプ氏の大統領選での活動などを支援するために約3億ドルを投入したが、最近では政治活動への支出を削減すると表明していた。
テスラの株価は昨年12月中旬以降に約25%下落している。当初はマスク氏とトランプ氏の関係や、同社のロボットタクシーが迅速な規制承認を得られるとの期待から急上昇。だが、販売が落ち込んだ上、マスク氏による極右政治家への支持や米連邦職員の解雇を巡って抗議が巻き起こったため下落に転じた。
アナリストらは、テスラが販売不振から抜け出すためには根本的な経営改善が必要だと指摘している。特に競争の激しい中国市場では、EVの購入者はテスラの競合他社製EVを求めるようになっているからだ。
モーニングスターのアナリスト、セス・ゴールドスタイン氏は「マスク氏のDOGE離脱は市場心理を改善するだろうが、テスラに本質的な変化は見られない」と明言。「テスラの納車台数減少は、現在の製品ラインが市場の飽和状態にあり、米国、中国、欧州という3つの主要市場全てで激しい競争に直面していることを示している」と語った。
LSEGのデータによると、テスラの予想利益に基づく株価収益率(PER)は約165倍と、エヌビディアやマイクロソフトなどの巨大ハイテク企業と比べてもはるかに高く、伝統的な自動車メーカーより割高なのは言うまでもない。
ウェドブッシュのダン・アイブス氏らテスラに強気の見方をするアナリストは長年、同社の将来価値は自動運転技術と結びついている主張してきた。アイブス氏は28日、自動運転技術はテスラ単体でも約1兆ドルの価値をもたらす可能性があると述べた。テスラはコメント要請に即座に応じなかった。
<トランプ氏との関係>
マスク氏の企業はトランプ氏との関係から恩恵を受けている。ロイターは先週、マスク氏率いるDOGEチームが米政府内のデータ分析のために、自社が開発した人工知能(AI)チャットボット「Grok(グロック)」の利用を拡大していると報じた。専門家によると、これによってマスク氏は貴重な非公開の連邦政府契約データにアクセスできるようになり、他のAIサービスプロバイダーに対して優位に立てる可能性がある。
ホワイトハウスは29日、トランプ政権が引き続き、さまざまな政府機関でDOGEの職員と協力していくと発表した。ただ、情報筋によると、マスク氏の側近であり、DOGEの業務運営の要となってきたスティーブ・デービス氏はDOGEの指導的役割から降りた。
スペースXが今週実施した巨大ロケット「スターシップ」の打ち上げは予想されていたより早く失敗し、最も重要な試験目標の一部を達成できずにインド洋上で爆発した。この結果、ロケットの迅速な開発というマスク氏の目標はまたしても一時停止した。スターシップは米国の宇宙計画において中心的な役割を果たすことになっている。
スペースXは長年、独自の経営チームを擁してきたが、今回の打ち上げ後、マスク氏は自ら同社の経営により多くの時間を割くつもりだと述べた。
テスラ株を保有するグロバルト・インベストメンツのシニア・ポートフォリオ・マネージャー、トーマス・マーティン氏はマスク氏について「政府の公式な構成員ではないが、明らかに政府とのつながりを維持している。したがって、影響力はわずかに低下するだろうが、規制問題に関しては大きな変化はないと思う」と語った。
マスク氏は、EVを標的とする法案の議会審議について数カ月間沈黙を保っていた。ところがテスラ・エナジーは28日遅くにXで、EVの税額控除を廃止する共和党の計画に批判を表明した。
テスラが来月予定するロボットタクシーの始動は、手ごろな価格のEVから、自動運転車および人型ロボット「オプティマス」へと軸足を移すマスク氏の計画の要となる。
マスク氏は政権離脱を表明した直後、テスラがテキサス州オースティンでEV「モデルY」を使った無人での自動運転試験を進めており、6月に自動運転で納車することを計画していると発表。「来月に工場から顧客への初の自動納車を行う」と語った。