ニュース速報
ビジネス

焦点:FRB金融政策の行方不透明、関税と二重苦で投資家はリスク回避

2025年05月08日(木)19時02分

5月8日、トランプ米大統領の関税による経済的影響を巡る不確実性と格闘している投資家は、混乱した貿易環境によって金融政策の進路が宙に浮いたままになる可能性に直面している。写真はパウエルFRB議長。ワシントンで1月撮影(2025年 ロイター/Kevin Lamarque)

Lewis Krauskopf Suzanne McGee

[ニューヨーク 8日 ロイター] - トランプ米大統領の関税による経済的影響を巡る不確実性と格闘している投資家は、混乱した貿易環境によって金融政策の進路が宙に浮いたままになる可能性に直面している。

米連邦準備理事会(FRB)は6─7日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利の据え置きを決定、インフレと失業率が共に上昇するリスクが高まっていると指摘した。予見可能な将来にわたって金利変更を急ぐつもりはないことを示唆、「金融政策の適切な対応」は不透明になった。

経済指標にはまだ減速の兆候は見られないが、ホワイトハウスが貿易相手国との交渉を続け貿易環境が依然として不安定な中、投資家はトランプ政権による大規模な関税導入による打撃に備えている。そのため、一部の投資家はより慎重になり、インフレ連動資産や景気後退を乗り切る可能性が高い企業の株式に注目している。

FRBが今のところ様子見姿勢となる中、市場参加者がFRBの次の動きに関する手掛かりとして注目する重要な経済データや貿易動向に対して、資産価格はさらに敏感になるだろうと、投資家らは指摘する。

クリアブリッジ・インベストメンツのシニア投資戦略アナリスト、ジョシュ・ジャムナー氏は「投資家にとって不確実性ほど嫌なものはないが、FRBは投資家に確実性を提供できる立場にない」と述べた。

政策決定後の記者会見で、FRBのパウエル議長は貿易政策は依然として不確実と指摘、様子見姿勢を維持する必要があるとの考えを示した。

フランクリン・テンプルトン・インベストメント・ソリューションズのアブソリュート・リターン・ポートフォリオ・マネジメント責任者、ロバート・クリスチャン氏は「パウエル氏は他の投資家と同様、この事態がどう展開するかをただ待っているだけだ」と語った。

FRBは昨年合計1%ポイント利下げした後、2025年に入ってから今のところ政策金利を4.25─4.50%に据え置いているが、投資家は全般的に今年さらなる緩和が行われると予想している。

7日会合後の市場の予想は会合前とほとんど変わっておらず、フェデラルファンド(FF)金利先物は12月までに25ベーシスポイント(bp)の利下げが3回程度行われるとの見方を織り込んでおり、次回の利下げは7月の会合になる可能性が高いとみられている。

退職・資産サービス会社エンパワーのチーフ投資ストラテジスト、マルタ・ノートン氏は、追加緩和の見通しは経済成長への打撃がインフレ上昇圧力を上回るとの見通しから生まれたものだと述べた。これを「基本シナリオ」と呼びつつ、「より幅広い可能性、特にインフレが予想外に上振れする可能性を考慮する必要があると思う」と続けた。

コロンビア・スレッドニードル・インベストメンツのシニア金利ストラテジスト、エド・アルフセイニー氏は、FRBは少なくとも9月の会合までは行動を起こさない可能性が高いとみる。「FRBが9月までに行動を起こすには、状況が劇的に悪化する必要がある」とした上で「そして9月までには、少なくとも今後の方向性について、多少なりとも明確な見通しが得られるだろう」と話した。

実際、2日に発表された好調な雇用統計を受け、トレーダーは今年予想される緩和規模を縮小、6月の利下げ可能性も低下した。4月の雇用統計では非農業部門雇用者数は17万7000人増加し、ロイター調査によるエコノミスト予想の13万人増を上回った。

コーエン・アンド・スティアーズのマルチアセット・ソリューション責任者ジェフリー・パルマ氏は、貿易政策と金融政策の不透明さに加え、連邦予算プロセスがどうなるかを含め財政政策についても不確実性があるとし「これら全ては、市場のボラティリティーが今後もやや高い水準で推移することを示唆している」と述べた。

<より安全な資産にシフト>

パルマ氏は、自社ではポートフォリオのより広範な多様化を推奨していると述べた。不動産、インフラ、天然資源などインフレ環境への対応力のある「実物資産」へのエクスポージャーを勧めているという。

クリアブリッジのジャムナー氏は、リスク/リターンの不確実な状況を踏まえ、変化する経済環境に適応できる柔軟性がある企業、もしくは経済の変動の影響を受けない競争上の優位性を持つ企業の株式に投資をシフトする方が得策だと述べた。

数カ月前から顧客のポートフォリオのリバランスやリスク削減に取り組んでいるファイナンシャルアドバイザーらは、パウエル議長による具体的な回答や詳細な予測が欠如していたことはまさに予想通りだったと述べた。

政策会合後、ペリゴン・ウェルス・マネジメントの最高投資責任者(CIO)ラフィア・ハサン氏は、今後の貿易協定に焦点を移しているとし「それが市場に実質的な影響を与える可能性が最も高い」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中ロ首脳、「鋼の友情」確認 協力強化と新世界秩序擁

ビジネス

英中銀、0.25%利下げ 関税が成長・インフレに影

ワールド

ロシア「3日間停戦」発効、ウクライナ外相「攻撃続き

ビジネス

トランプ氏、FRB議長を「愚か者」と批判 金利据え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 9
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 10
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中