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アングル:インド映画業界に激震、トランプ氏「外国作品に高関税」表明で

2025年05月08日(木)17時42分

海外収入の約4割を米国に依存しているインドの映画業界に今週、警報が鳴り響いた。トランプ米大統領が外国で制作された映画に対して100%の関税を課す方針を示したからだ。写真はインドのコルカタのショッピングモール内にある映画館でチケットを購入する人々。2024年2月撮影(2025年 ロイター/Sahiba Chawdhary)

Haripriya Suresh Saurabh Sharma Rishika Sadam

[ベンガルール/ニューデリー/ハイデラバード 7日 ロイター] - 海外収入の約4割を米国に依存しているインドの映画業界に今週、警報が鳴り響いた。トランプ米大統領が外国で制作された映画に対して100%の関税を課す方針を示したからだ。

トランプ氏が計画の詳細を明かさなかったため、インド映画業界の関係者らは実際に関税がどんな影響をもたらすのか頭を悩ませている。

ネットフリックス配信の「IC814:カンダハル・ハイジャック」で知られる映画監督アヌバウ・シンハー氏は「本当の問題は『外国で制作された』という言葉の定義で、それがはっきりするまで何か言うのは難しい。ポストプロダクション(現場撮影後の作業)といったサービスが影響を受けるのかどうかもまだ分からない」と語った。

会計事務所のデロイトなどがまとめたリポートによると、インドの映画産業は27万2000人を雇用し、2024年度の海外興業収入はおよそ200億ルピー(2億3700万ドル)と全収入の10%に相当する。

そのインドの映画業界は、まだ実態が見えないトランプ氏の関税措置によって米国向けの輸出コストが2倍に跳ね上がるのではないかと心配している。米国は推定520万人のインド人が暮らす大きな市場となっている。

湾岸戦争時のクウェートからのインド人脱出作戦を描いた「エアリフト」などが代表作の映画プロデューサー、マドゥ・ボージュワニ氏は「米国はインド映画にとって最も重要な海外市場の1つで、その主な理由は相当な数の在留インド人の存在だ。関税に伴うチケット価格の引き上げがあれば観客動員数に直接影響し、消費者の行動と業界全体への逆風により生み出されたさまざまな試練が厳しさを増すだろう」と指摘。トランプ氏の発言がもたらす激震に警戒感を示した。

インドはコスト面から米ハリウッドの映画産業にとっても撮影やポストプロダクション、特にビジュアル効果の面で、有能な人材を供給できるため拠点を築く先として好まれている。

専門家の1人は「毎年10-15本前後の(外国)映画がインドで撮影されており、(関税は)映画業界に多大な影響を及ぼすだろう」と述べた。

<デジタル配信加速か>

インドの有名な俳優・プロデューサーのプラカシュ・ラージ氏は、トランプ氏の行動を「関税テロ」とまで評している。

ボージュワニ氏は、関税対象にポストプロダクションが含まれるとすれば、打撃を受ける範囲はより大きくなると予想。「米国の制作会社からインドの業者への外注が減少し、インドのメディアサービス部門に目をむくほどの影響を与えかねない」と警戒する。

エロス・インターナショナル・メディアのプラディープ・ドウィベディ最高経営責任者(CEO)は「米国からの収入が減れば、インドの制作会社にとって予算計画と収益性に響いてくる。海外収入に頼って多額の予算を投入する映画は規模縮小を迫られる可能性がある」と説明した。

米国で上映される、公開規模がもっと小さい作品も痛手は免れそうにない。

インド南部テルグ語で物語が展開するロマンティックコメディー映画「ペッリ・チューブル」のプロデューサー、ラージ・カンドゥクリ氏は「そうした中規模映画の収入が30%落ち込むだけでかなりの影響になる。米国には映画を観る学生がかなりいるが、高額のチケット代を払おうとはしないだろう」と話す。

外国制作映画への関税は、映画のデジタルプラットフォーム配信をさらに促す要因にもなるかもしれない。

ドウィベディ氏は「関税のせいで米国の配給会社はインド作品の取り扱いを減らすのではないか。そうなると上映館が減り、公開規模も小さくなり、劇場からデジタルプラットフォームへの移行が進んでもおかしくない。関税が(インド映画を)エロスナウやネットフリックス、アマゾン・プライム、Huluといったプラットフォームに向かわせる動きを加速させる公算は大きい」とみている。

ロイター
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