ニュース速報
ビジネス

アングル:米低価格住宅不足に「犯罪スコア」が追い打ち、保険料高騰

2024年11月09日(土)08時05分

 11月5日、 米国で手頃な価格の住宅が決定的に不足している状態がさらに深刻化するかもしれない。ラスベガスの集合住宅で2018年8月撮影(2024年 ロイター/Mike Blake)

Carey L. Biron

[ワシントン 5日 トムソン・ロイター財団] - 米国で手頃な価格の住宅が決定的に不足している状態がさらに深刻化するかもしれない。第三者が算定する「犯罪スコア」が一因で住宅保険料が高騰し、一部事業者が撤退に追い込まれかねない事態になっているからだ。

過去5年で米国の住居費は急上昇し、ほぼ全ての地域で低価格の住宅が不足している。長期間続いてきた新築住宅の供給ひっ迫は近年、インフレや人手不足でさらに拍車がかかっている。

全米集合住宅協議会(NMHC)は昨年、高騰する保険料が全米で家賃を押し上げていると警告し、平均の保険料は1年で26%上がるとともに、個人賠償責任保険の保険料も15%上昇したと指摘した。

南部ジョージア州アトランタで低価格住宅を開発・所有しているアビ・ウォルフ氏は、どの物件を取っても採算が取れにくくなりつつあると嘆く。

ウォルフ氏が負担する保険料は、10年前は集合住宅1部屋当たり年間約50ドルだったのに、今では1500ドルになった物件もある。特に所有物件内で暴行傷害事件が起きた際に所有者を訴訟から守るための保険は、事実上加入できなくなった、とウォルフ氏は話す。

同氏がジョージアでまだ利用できる少数の保険会社は、近隣の犯罪発生件数に基づいた「犯罪スコア」を使って物件の保険料を決めているが、どのような尺度でスコアが算定されるか詳しいことは明らかにされていない。

こうした法外な保険料のために所有物件の売却を迫られる業者が増えれば、アトランタの住宅市場は物件の連鎖的な処分が止まらなくなるのではないか、と同氏は心配している。

アトランタ市域の一部を含むデカルブ郡の行政委員長に選出されたロレイン・コクランジョンソン氏は、犯罪スコアをかつて銀行が導入していた「法的なレッドライン設定」にたとえる。この仕組みの下では主に黒人や他のマイノリティが居住する地区への住宅ローン供与はリスクが高過ぎると判断されていた。

コクランジョンソン氏は「これらの地域は最も大規模な再生が求められるだけに、法的な面で関心を向ける必要がある。保険料の引き上げ自体を問題視するものではないが、加入を全く否定してはならない」と訴えた。

<ブラックボックス>

米国損害保険協会のエリック・ゴールドバーグ氏によると、犯罪スコアは民間保険会社が損害リスクを分析する際に用いる手法の1つ。「例えば住宅の借り手や訪問客が敷地内で襲撃されれば、訴訟を起こされる恐れがある。その上、物件が犯罪多発地域にあれば、破壊や放火、盗みなど保険引き受け能力に響きかねない事案のリスクも増大するかもしれない」という。

ゴールドバーグ氏は、物件所有者による警備システム導入などのリスク軽減の取り組みも、保険会社は考慮に入れるだろうと補足した。

バージニア工科大学のジェフリー・ロバート助教は、商業不動産への犯罪行為に関する費用のかかる訴訟を避ける目的で、犯罪スコアに頼る保険会社は増えていると話す。

ロバート氏によると、低価格住宅は犯罪が比較的多い地域に存在することが多く、この点は特に低価格住宅にとって問題になるという。同氏は2020年に執筆したリポートで、犯罪スコアは独自のアルゴリズムを使った外部企業が創出し、国勢調査のデータやさまざまな犯罪の報告を利用しているものの、個別物件に適用できるようなきめ細かい情報を欠いているとの見方を示した。

当該住宅の数ブロック先、ないし地方であれば数マイルも先で起きた襲撃事件でも、この物件の保険料を押し上げるか、保険加入自体が拒否される要因となる可能性があるという。ロバート氏は「あなたが犯罪スコアの高い地域に住んでいるなら、交渉の余地はない」と説明した。

ロバート氏の研究を支援する保険ブローカー、スコット・インシュアランスで低価格住宅部門責任者として顧客のために保険加入交渉を担当するネーサン・カー氏は、保険料高騰に伴い、犯罪スコアへの不満の声が高まりつつあると指摘する。

カー氏は「現在の保険コストは本当に過酷だ。不動産と一般的な損害保険の保険料はわれわれの業界を破壊しつつある」と述べ、犯罪スコア算定手法が「ブラックボックス」になっていると批判した。

ただニューヨークを拠点に活動する非営利団体フェアビュー・ハウジング・パートナーズのエグゼクティブディレクター、トム・アムダー氏によると、犯罪スコアは低価格住宅の保険料高騰をもたらしている要素の一部に過ぎず、自然災害や訴訟増加で経費が膨らんだ保険会社が住宅事業者にコストを転嫁している面もあるという。

アムダー氏は、今の状況が続けば一部の住宅所有者は物件を手放すしかなくなり、オーナー変更や差し押さえを通じてそうした物件に適用されていた取引価格の上限規制が外れるのが「(低所得住宅の)存続に関わる大きなリスク」だと分析。過去1年で当局も介入の必要性を認識し始めたと付け加えた。

連邦政府の住宅都市開発省の広報担当者は、不動産保険料高騰の影響を「深く懸念」し、問題解決のための新たな手段を検討していると述べた。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、利上げと利下げの可能性は五分五分=リトアニ

ワールド

韓国国会、対米投資の特別委員会を設置 関連法を迅速

ビジネス

英ナットウエスト、エブリン・パートナーズ買収 36

ビジネス

インドネシア、市場急落受けMSCIと週内会合 取り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 5
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    背中を制する者が身体を制する...関節と腱を壊さない…
  • 8
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 9
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 10
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中