EU経済再生、大規模な投資と改革必要=ドラギ氏報告書
欧州中央銀行(ECB)前総裁で前イタリア首相のマリオ・ドラギ氏は9日、欧州連合(EU)の競争力向上に関する報告書を公表した。フォンデアライエン欧州委員長(右)と記者会見に臨んだドラギ氏、9日撮影。(2024年 ロイター/Yves Herman)
Philip Blenkinsop
[ブリュッセル 9日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)前総裁で前イタリア首相のマリオ・ドラギ氏は9日、欧州連合(EU)の競争力向上に関する報告書を公表した。EUが米国や中国に追いつくには、より協調的な産業政策と、より迅速な意思決定、大規模な投資が必要と指摘した。
EUの執行機関である欧州委員会は1年前、世界的な摩擦が激化する中でEUがどのようにグリーン化を進め、デジタル経済の競争力を高めるべきかについて、ドラギ氏に報告書をまとめるよう依頼した。
ドラギ氏はブリュッセルでの記者会見で「現在の状況は非常に憂慮すべきものだ」と言明。長期にわたる欧州の成長鈍化を無視してきたことについて「もはや無視することはできない。状況は変わっている」とした。
約400ページに及ぶ報告書の冒頭でドラギ総裁は、EUは年間7500億─8000億ユーロ(8290億─8840億ドル)の追加投資が必要と指摘した。これは域内総生産(GDP)の最大5%に早津し、第2次世界大戦後の欧州再建に向けたマーシャルプランの1─2%を大きく上回る。
EU諸国はすでに新たな現実に対応しているが、連携不足のため効果は限られているとした。
「EUの取り組みを最も差し迫った問題に集中し、共通の目標の下で効率的な政策調整を確保し、より迅速に行動したい加盟国はそれができるような新しい方法で、既存の統治手続きを活用する必要がある」と提起した。
必要な投資額の一部は既存の加盟各国やEUの財源で賄われるものの、新たな共通財源の確保が必要になるとの見解を改めて示した。
これに対し、ドイツのリントナー財務相は共同借り入れではEUの問題は解決しないとし、これに同意しない考えを示した。
また、複数のアナリストはEUはドラギ氏の提案に消極的な姿勢を示す可能性が高いと指摘。「ドイツとフランスの政治的不透明感、そして他のEU加盟国間の長年の分裂が、ドラギ氏が提起する統合に向けた前進の妨げとなる可能性がある」との見方を示した。
EUはロシア産の安価な天然ガスを確保することができず、エネルギー価格の上昇に対処するのに苦慮しており、もはや海外市場に頼ることはできないとの認識を示した。
EUはイノベーションを促進しエネルギー価格を引き下げる一方で、脱炭素化を継続し、必須鉱物資源で他国、特に中国への依存を減らし、防衛投資を増やす必要があると訴えた。