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アングル:漂流する中国株式市場、最後の望み個人投資家も敬遠

2023年05月30日(火)17時48分

 新型コロナウイルス後の上昇に陰りが見える中国株式市場では、最後の希望も消滅しつつある。写真は北京の証券会社で株価ボードを見る投資家。2020年1月撮影(2023年 ロイター/Jason Lee)

[上海/シンガポール 30日 ロイター] - 新型コロナウイルス後の上昇に陰りが見える中国株式市場では最後の希望も消滅しつつある。景気回復が失速する中、大量の個人投資家が株式に弱気になり、安全資産に資金を移しているためだ。

市場関係者は今年、巨額の余剰貯蓄が株式市場に流れ込むと予測していた。景気の回復ペースが増す一方で、不動産市場の霧が晴れず、投資先は株式しかないとの見立てだった。

ところが、海外からの資金流入は実現せず、警戒した個人投資家も株式市場に背を向け、債券や預金に殺到。株式市場は漂流している。

中国本土の株式市場は昨年10月から今年1月にかけて20%高騰したものの、足元では年初から1%下落。香港株式市場も年初来安値で取引されており、中国国債の利回りは低下している。値上がり確実とされていた市場が失速し、資金流出が続いている。

上海市に住む投資歴3年の30代のプログラマーは「かなり落胆している。損失を全て取り戻すまでもう株には投資しない」とし、会社でリストラされる恐れがあるので、月収の約半分を理財商品や貯蓄商品に投資していると語った。

「今は安全重視だ。元本を失いたくない」。他の個人投資家に話を聞いても、こうした考え方はある程度広がっているようだ。

中国証券監督管理委員会(証監会)の易会満主席によると、中国では個人投資家の取引が市場全体の約6割を占める。JPモルガンの推計によると、米国では25%未満だ。

個人投資家の株式離れは市場のデータにも表れている。リスク選好度の指標である信用取引残高は約1カ月ぶりの低水準。A株市場の取引高は3月初旬以来の水準に落ち込んでいる。

中国証券預託決済機構によると、証券会社の口座開設も2─3月は勢いがあったものの、4月は減少。投資信託の設定も減っている。

グロウ・インベストメント・グループのチーフエコノミスト、ホン・ハオ氏は「株式市場は中国の景気回復というテーマに不信感を抱いているようだ」と述べた。

<待つしかない>

投資家の熱狂が冷めた背景には、国内経済指標の悪化、政治的緊張の高まり、世界経済の減速といった悪材料がある。

中国の4月の鉱工業生産と小売売上高は予想を下回り、銀行融資も予想外に急減。西側諸国は中国製造業への依存を減らす動きを加速している。

個人投資家は、こうした諸々の要因を挙げ、多額の資金を預金以外に振り向けるのは不安だと話す。中国人民銀行(中央銀行)のデータによると、新型コロナが猛威を振るっていた1年前よりも早いペースで預金が増加している。

ある個人投資家は「今年はテーマの循環が速すぎ、投資機会をつかむのがとても難しい。地合いが弱く、政策リスクや地政学リスクもあり、以前より用心している」と打ち明ける。

もっとも、悪い兆しばかりではない。一部では、市場が将来大きく反転し、国内投資家が戻ってくるとの見方も出ている。

BNPパリバ・アセット・マネジメント(香港)のシニア・インベストメント・ストラテジスト、チー・ロ氏は「一部の市場関係者の推計によると、余剰貯蓄の10%が資産市場への投資に充てられる可能性がある。これは8000億元前後に達する」と指摘。

UBSアセット・マネジメントのアジア太平洋マルチアセット・マネジメントを統括するヘイデン・ブリスコー氏も、こうした投資家が市場を押し上げると予想。最近、銀行以外の融資が増えており、経済にお金が回り始めた初期の明るい兆しだとの見方を示した。

ただ、そうはいっても、本格的な動きが始まっているわけではない。国有企業株が好調という明るい話題も、投資家のリスク選好が高まったというより、債券投資のような配当狙いの側面が強い。ミニバブル気味のAI(人工知能)関連株を除いては、魅力的なリターンは見つからない。

上海在住の40代の男性は「株式投資で約90%の損が出ている」とし、以前は初日の高騰を期待して熱心にIPO(新規株式公開)に応募していたが、今は「損失を解消するまで待つしかない」と語った。

ロイター
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