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焦点:中国地方政府、雇用と債務の二律背反に 膨らむ財政危機

2023年04月02日(日)09時29分

 中国の地方政府が抱える債務は総額9兆ドル。GDPの約50%に達し、持続的な経済成長を推進する上で最も大きな脅威の1つに挙げられている。写真はイメージ。2019年11月撮影(2023年 ロイター/Florence Lo)

[北京/香港 30日 ロイター] - 中国で債務規模が最大級に膨らんでいる幾つかの地方政府が、大量の新規採用を進めている。今年は記録的な数の大学卒業生が労働力人口に加わるとの見通しに対応し、雇用を創出する狙いとみられる。ただ、これによって既に脆弱な地方財政が一段とひっ迫しかねない、と専門家は警告する。

中国の地方政府が抱える債務は総額9兆ドル。国内総生産(GDP)の約50%に達し、持続的な経済成長を推進する上で最も大きな脅威の1つに挙げられている。

中央政府が今年掲げる主要政策目標には、こうした地方の借金に関連するリスクを取り除くことが含まれる。

一方で、新型コロナウイルスの感染対策として実施したロックダウン(都市封鎖)や移動規制などによる経済の痛手がなお残る中で、雇用創出も優先課題とされる。

ところが、人も企業も出て行ってしまう比較的貧しい地域の場合、仕事口はほぼ地方政府と言っても差し支えない。そして、地方政府は所得税や土地売却を通じた歳入の確保に苦戦を強いられている。

ムーディーズのバイスプレジデント兼シニアアナリスト、ジャック・ユアン氏は「この種の戦略は、高等教育を受けた若者をもっと発展した地域に流出させず、地元にとどめようとする計算が働いているのだろう」と話す。

だが、これらの地域は予算と債務の窮迫感が相対的に強いので、採用拡大に伴う歳出増が財政リスクを助長させると指摘した。

中国の大手公務員試験予備校、中公教育科技股分有限公司(オフcn・エデュケーション・テクノロジー)によると、今年は甘粛省と雲南省、広西チワン族自治区の採用予定者数の増加率が最も高くなりそうだ。

北西部の乾燥地帯にある甘粛省は4249人を新規採用する計画で、昨年比増加率は80%近い。南部山岳地帯の雲南省と広西チワン族自治区の予定人数はそれぞれ5696人と6781人、増加率は59%と55%だ。

独立系経済メディアの財新が伝えたところでは、中国本土31省と各自治体の採用予定者数合計は約19万人と、昨年比16%の増加となる。

総体的に最も多く雇用を増やしている省は借金も多い。天風証券がまとめた省別の昨年の歳入に対する債務比率を見ると、雲南省は1087%と最大で、甘粛省は3番目の970%、広西チワン族自治区は5番目の910%だった。

ロイターは、これら地方政府が採用を拡大している正確な理由や、財政への影響を把握することはできなかった。ただ、この問題はほとんどのエコノミストを不安に陥れている。

華宝信託のニエ・ウェン氏は「こうした地域で土地売却の不振に拍車がかかるようなら、これほどの規模の公務員採用は持続できないだろう」と述べた。

<雇用第一>

今年3月に首相となった李強氏は、中国が「雇用第一」を政策課題に据える必要があると訴えた。実際、中央政府は今年の成長率目標を5%前後と控えめに設定しながらも、創出すべき雇用の目標は昨年の1100万人から1200万人に引き上げている。

背景には、今年の労働市場に新規参入してくる過去最高の1158万人の大卒者に仕事を提供しなければならないという事情がある。足元で16―24歳の失業率が18.1%と過去最悪に近い水準で推移しているだけに、これは政府にとっても難しい任務だ。

中公教育科技股分有限公司の説明では、甘粛省と雲南省、広西チワン族自治区が求めている人材は主に法律、ファイナンス、会計の学部出身者で、応募基準も大卒者にとって有利になっているという。

甘粛省のある職員はロイターに、大量採用は退職者の補充という面はあるが、あおりを受けて給与カットに見舞われた人もいると明かした。

多くの地方政府は、インフラ整備事業などの資金を債券市場から調達する上で、いわゆる地方融資平台(LGFV)に依存している。LGFVは地方政府が傘下に置く投資会社で、資金調達とデベロッパーの機能を併せ持っている。

国際通貨基金(IMF)は今年2月のリポートで、中国の各LGFVが抱える債務の合計が足元で、昨年の57兆元から過去最大の66兆元(9兆5000億ドル)に膨らんだと発表した。

これらLGFVの借り入れには厳密な公的保証が付与されているわけではなく、その資産には利用されていない空港や道路など価値が疑わしいものも少なくない。

今のところLGFVがデフォルト(債務不履行)を引き起こしたという公式発表はないものの、ムーディーズのユアン氏は、甘粛省を含む地方政府が債務返済のための借り換え圧力増大に直面していると警鐘を鳴らす。

このためユアン氏や他の専門家は、大量採用や高過ぎる成長目標を実現しようとすれば、とっくに限界を迎えている財政の面で、より深刻な問題が生じる恐れがあると懸念している。

INGの広域中華圏チーフエコノミスト、アイリス・パン氏は「普通ならこのような成長率と債務比率(の共存)は非常に危険なストーリーだ」と眉をひそめた。

(Ellen Zhang記者、Marius Zaharia記者)

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