ニュース速報

ビジネス

焦点:中国自動車市場、EV化で国内勢が海外メーカー大逆転

2022年05月28日(土)07時38分

 5月26日、世界的自動車メーカーが電気自動車(EV)の時代に入っても中国で支配的地位を保てると考えているとすれば、ショックを味わうことになるかもしれない。写真は上海オートショーで展示されたフォルクスワーゲンID. 6 X。2021年4月撮影(2022年 ロイター/Aly Song)

[北京 26日 ロイター] - 世界的自動車メーカーが電気自動車(EV)の時代に入っても中国で支配的地位を保てると考えているとすれば、ショックを味わうことになるかもしれない。

内燃機関車時代の「王」だった米ゼネラル・モーターズ(GM)や独フォルクスワーゲン(VW)は今、中国で急拡大するEV市場で国内メーカーに遅れを取っている。

北京の会社員ティアンナ・チェンさん(29)が18万元(2万7000ドル)で小鵬汽車(シャオペン)のクロスオーバー車を買った際に一番悩んだのは、BYD(比亜迪)もしくは上海蔚来汽車(NIO)のEVにすべきかどうか、という点だった。高級な外車ブランドはほとんど検討しなかった。

「もしもガソリン車を買うのであれば、外車を考えたかもしれない。でも私がほしかったのはEVで、テスラを除くと最新のスマートテクノロジーをきちんと装備している外車ブランドはほとんど見当たらなかった」とチェンさんは言う。

約5000億ドルと世界最大の規模を誇る中国の自動車市場。ここでは今、EVの販売が急増している。

中国自動車工業協会(CAAM)のデータによると、今年1─4月の新エネルギー車(NEV)販売台数は前年同期の2倍以上に増えて149万台に達した。NEVにはEVとプラグインハイブリッド車(PHV)が含まれる。

ガソリン車需要の急減で中国の自動車販売全体が12%減る中で、乗用車市場全体に占めるNEVの割合は23%に拡大した。

今年のNEV販売台数を見ると、上位10社に入っている外資系メーカーは3位の米テスラのみだ。中国乗用車協会のデータで明らかになった。

残りはすべてBYD、上汽通用五菱汽車(ウーリン)、奇瑞汽車(チェリー)、小鵬汽車など中国ブランドが占めている。首位のBYDは年初からのEV販売台数が約39万台と、テスラの中国販売の3倍だ。

老舗メーカーの中でEV販売台数が最も多いのは、VWと中国第一汽車集団(FAW)のEV合弁会社で、15位にとどまっている。

チェンさんは、「ビュイック ヴェリテ7」にしろVWの「ID.」シリーズにしろ、外車ブランドには自分の求めるもの、つまり車内でスマートフォンのような体験ができる「快適さ」が備わっていないと言う。

「外車ブランドは私の生活、ライフスタイルとかけ離れている」とチェンさん。今乗っている小鵬汽車のEVは、運転手をアシストするデジタル機能を使って決済アプリの「支付宝(アリペイ)」や電子商取引サイトの「淘宝(タオバオ)」に接続することができるほか、「窓の開け閉めから音楽のスイッチオンまで、私に代わって全部やってくれる」。車のソフトウエアも無線で更新される。

自動車業界は逆転が起きた。1990年代以降、中国の自動車市場を支配してきたのは世界的ブランドで、近年は合計で乗用車販売の6―7割を占めるのが普通だった。しかし今年1―4月のシェアは52%、4月単月では43%に縮小している。

日産自動車の内田誠社長はロイターとのインタビューで、一部の外車ブランドは3、5年以内に中国市場から消えかねないとし、中国メーカーのEVの品質は日進月歩の勢いだと語った。

内田社長は、中国市場は多くの変化が起こると見込まれるため、状況を注視していくと説明。デザインや開発、新型車の投入を機敏に進めていかなければ取り残される恐れがあると警戒感を示した。

<ハイテクネーティブ>

上海のコンサルティング会社、オートモビリティを率いるビル・ロッソ氏は、世界的ブランドは中国EV市場のシェアが20%に満たないため、早急に状況を転換する必要があると指摘する。ロッソ氏はクライスラーの元幹部だ。

クライスラーの幹部だったロッソ氏は「中国ブランドがEV競争を制しつつある」と指摘。「四輪の上に乗ったスマホ」さながらのEVを求める消費者の流れは止まらないとみられ、「ハイテクネーティブではない」老舗メーカーはついていくのに苦心していると説明した。

過去20年間、VWとともに中国市場のトップに立ってきたGMは今、大都市の若い消費者の獲得に注力している。しかし、事情に詳しい関係者2人によると、今のところGMのEVはそっぽを向かれているのが実情だ。

GMはロイターの取材に対し、2025年までに中国でのEV生産能力を年間100万台に増やす予定だと回答。「ビュイック ベリート」のシリーズ、「シボレー メンロー」とも昨年から今年の第1・四半期にかけて「大きく販売が伸長した」としている。

<アウトバーン並みのスピードは不要>

VWは昨年はじめに中国で「ID.」シリーズの新世代車を導入したが、8万─10万台という昨年の販売目標を達成できなかった。今年の目標は16万─20万台だが、4月までに売れたのは3万3300台にとどまっている。

GMとVWの内部事情に詳しい人物によると、外資系メーカーのEVに関する一番の懸念は、欧米市場を念頭にデザインされ、性能と耐久性に重点を置いていることだ。

「アウトバーン(ドイツ圏の高速道路)並みのスピード?ほとんどの中国の大都市は渋滞がひどく、時速60キロ以上さえ出せない日が多いというのに」とこの人物は語った。

VWは、中国のNEV需要は「スマートカー」コンセプトと強く結びついているとし、同国でソフトウエアを筆頭とする研究開発に投資すると表明。「当社は2030年までにEV市場でもリーダーになりたい。つまりVWが将来も中国ナンバーワンの座をしっかり維持できるようにしたい」とした。

上海の土木技師、リー・フアユアンさんは昨年、保険料込みの29万元でBYDのセダン型EVを購入したが、日本車やドイツ車は真剣に検討しなかった。

「米国のブランドだとテスラしか目を引かない。私から見れば、他のブランドは比較対象にすらならない」とフアユアンさんは語った。

(Norihiko Shirouzu記者) 

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏ルノー、モビライズ部門再編 一部事業撤退・縮小

ビジネス

中国の新規銀行融資、11月は3900億元 予想下回

ビジネス

ECB、大手110行に地政学リスクの検証要請へ

ワールド

香港の高層住宅火災、9カ月以内に独立調査終了=行政
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中