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インタビュー:抗えぬマイナス金利深掘り、手数料収入の拡大に注力=富山銀頭取

2021年06月22日(火)17時41分

富山銀行の中沖雄頭取はロイターとのインタビューで、日銀が将来的にマイナス金利を深掘りしても「抗えない」として、それに備えて資産運用、事業承継、M&A(企業の合併・買収)などの分野で手数料収入の拡大に注力すると述べた。写真は2013年2月、都内で撮影(2021年 ロイター/Shohei Miyano)

和田崇彦

[東京 22日 ロイター] - 富山銀行の中沖雄頭取はロイターとのインタビューで、日銀が将来的にマイナス金利を深掘りしても「抗えない」として、それに備えて資産運用、事業承継、M&A(企業の合併・買収)などの分野で手数料収入の拡大に注力すると述べた。日銀の大規模金融緩和で伝統的な預貸ビジネスが行き詰まる中、同行は有価証券の運用を外部に委託する異例の試みにも乗り出している。一方、他の地銀と経営統合する可能性は否定した。

<小規模ゆえの機動的対応が可能に>

日銀のマイナス金利政策の影響について、中沖頭取は「どれだけ貸出を伸ばしても儲からない状況だ」とした上で、いずれ日銀が踏み切ると予想されるマイナス金利の深掘りに備えて手数料ビジネスでどれだけしっかり稼げるかが重要だと指摘。「預貸で儲からないというのであれば、さまざまな手数料ビジネスを通じて収益を安定させて、顧客に信頼される健全な経営を行っていかなければならない」と語る。

規模の小さい銀行であるため店舗の数やATMなど固定費が比較的少なく、「機動的にいろいろな対応ができる素地がある」とも話した。 日銀が地域金融機関の経営効率化に向けて打ち出した特別当座預金制度については「収益的に後押ししてもらうメリットのある話であり、前向きに検討しない手はない」と述べた。

富山銀の21年3月期のコア業務純益は11億0800万円。マイナス金利が導入された2016年3月期の14億4600万円から23%減った。中期経営計画では、23年度にコア業務純益を14億円以上とする目標を掲げる。 <運用の外注で狙うは「目ざとい顧客」>

有価証券運用の強化に向けて、富山銀は今年5月、独立系の日本資産運用基盤グループ(東京・中央区)とアドバイザリー契約を締結した。

黒田東彦日銀総裁の下での大規模緩和により、預金を集めて貸し出し、利ザヤを稼ぐビジネスモデルが苦戦を強いられている一方、中沖頭取は、株価は堅調に推移したことに言及。「有価証券運用に地銀も力を入れないといけない」と述べた。自前で運用のプロを育成するのが難しいことなどが運用の外部委託につながったと説明した。

資産運用基盤グループとの連携を通じ、顧客の中にいる「運用に非常に目ざとい顧客」(中沖頭取)にも浸透を狙う。富山銀が本店を置く富山県高岡市は銅器などで知られる江戸時代以来の工業都市で、同銀は100億円規模の運用資産を有する企業や個人を取引先に抱えている。資産運用基盤グループや中沖頭取がみずほ証券時代に培ったネットワークを生かし、海外のファンドへの直接投資を紹介したケースもあるという。

<地銀の共存で地域経済を支える>

富山県には県内に本店を置く地銀が3つあるが、中沖頭取は、足元では新型コロナウイルス感染症の影響を受けた顧客への対応に軸足を置いており「経営統合や合併ということを考えている余裕や暇がないというのが正直なところだ」と話す。他の地銀と合併・統合すると利益を出すために取引の見直しをせざるを得ず、不採算取引や重複する部署・人員の削減などにつながると指摘する。

「富山に3つもある地銀が2つか1つになってもいいのではないかと考える人もいるが、それが地域にとって本当にプラスなのか。必ずしもそうではない」と語り、「いろんな大きさやスタイルで(各地銀が)併存しながらうまく絡み合って地域が回っていくのが現実の姿ではないか」と述べた。 中沖氏は1962年、富山市生まれ。86年に東大経済学部を卒業し、旧日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。みずほ証券執行役員を経て、2019年に富山銀に入った。20年5月、斉藤栄吉頭取の急逝を受けて頭取に就任した。

*インタビューは21日にオンライン形式で実施しました。

(和田崇彦 編集:田中志保)

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