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焦点:テーパー・タントラム再燃の懸念、世界債務膨張で混乱も

2021年02月22日(月)07時09分

 2013年5月、米FRBは量的緩和策の縮小を示唆。債券投資家の大規模なろうばい売りを引き起こした。「テーパー・タントラム(かんしゃく)」と呼ばれた現象だ。現在、同じような売りが発生すれば、もっとひどい混乱になりかねない。写真はワシントンのFRB本部。2018年8月撮影(2021年 ロイター/Chris Wattie)

[ロンドン 18日 ロイター] - 2013年5月、米連邦準備理事会(FRB)は量的緩和策の縮小を示唆。債券投資家の大規模なろうばい売りを引き起こした。「テーパー・タントラム(かんしゃく)」と呼ばれた現象だ。そして現在は、当時よりも世界全体の債務総額が約70兆ドル膨らんでいる。同じような売りが発生すれば、もっとひどい混乱になりかねない。

バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)の機関投資家2月調査でも、13年当時のテーパー・タントラムのような動きが最も警戒すべき市場リスクの1つに挙げられた。背景には、インフレ期待の高まりを受け、主要中央銀行が近く大規模緩和の巻き戻しや縮小(テーパリング)を開始しようと心を決めるのではないかとの不安がある。

サマーズ元米財務長官など一部専門家は、巨額の財政出動がインフレ高騰を誘発すれば緩和縮小時期は想定より、もっと早まると警鐘を鳴らす。こうした懸念を反映する形で、米10年国債利回りは16日に一時約1年ぶりの高水準に跳ね上がり、株価は最高値圏から伸び悩みに転じたばかりか、長らく冬眠状態にあった債券市場のボラティリティー指標までが、久しぶりに注意信号を点滅させている。

ブルーベイ・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、カスパー・ヘンセ氏は「金利上昇がボラティリティーとスプレッドの拡大、そして売りを意味するのは13年に見た通りだ。レバレッジ比率が高まっている以上、当時より今の方がリスクは大きくなっているのは間違いない」と語る。同氏は年初来で30-40ベーシスポイント(bp)幅となっている利回り上昇基調が続くと見越し、米国債投資の圧縮に動いた。

実際、国際金融協会(IIF)によると、世界の債務総額は13年の210兆ドルから足元で281兆ドルに増加。企業、家計ともに新たに背負った借金はあまりにも多い。

経済成長とインフレが債務減らしに作用してもおかしくない。一方で、景気回復を後押しするための政策はまさにさらなる借金を促す恐れがある。フィデリティー・インターナショナルのグローバル債券最高投資責任者スティーブ・エリス氏は、こうした膨大な債務のために中銀は「流動性供給と超低金利の無限ループ」に陥ったままとなっており、債務の破綻化を防ぐ唯一の方法が、借り換えコストを低く抑え続けることになっていると分析した。

そうした中で弱気派が監視しているのが、本当の資本コストを示す物価調整後の実質債券利回りの動きだ。13年には米国債の実質利回りが100bp急騰した。

ただ、今回そうした事態は起きておらず、株式や新興国市場が大きな悪影響を免れる結果になっている。

これは、市場が予想物価の上振れに中銀が対応する展開を織り込んでいないことも意味する。だからこそ、テーパー・タントラム再燃の不安がありながらも、バンカメ調査に回答した機関投資家はなおも株式とコモディティーの保有比率を約10年ぶりの高水準に維持しているのかもしれない。何しろまだ実質利回りはマイナス1%近くなので、株式のリターンは債券に対して5%のプレミアムがついている。

<リスク量の増大>

市場が金利変動に対してより過敏になっているのは、債務の規模だけが原因ではない。

まず近年の金利急低下により、トレードウェブで取引される世界の国債と社債のうち利回り3%以上の割合はたった7.8%にとどまっている。世界の株式の予想利益に基づく株価収益率(PER)は13年5月の12.5倍から20倍まで上昇。投資家が高利回り債(ジャンク債)にも殺到した結果、直近のバンカメ調査で高リスク資産の保有比率が過去最高を記録したという現実がある。

最後に、投資家がより長期の債券保有を拡大しているという事実もある。ICE・BofA世界ソブリン債指数のデュレーション(平均償還年限)は8.5年と、13年当時から2年延びている。

デュレーション長期化は、金利変動に対する債券価格変動の度合いを示す「コンベクシティ」の高まり、つまり小幅の利回り上昇でもより大きな価格下落につながるリスクを投資家にもたらす。

こうしたリスクは今年、オーストリアの100年国債利回りが35bp上がったのに伴って価格下落が2割にもなったり、米30年国債利回りが40bp上昇して価格が4%も下がったりしたことで鮮明になっている。

フィデリティーのエリス氏は、米10年債利回りがもし現在の水準から50bp上昇した場合、1カ月間で価格は4.62%目減りしてしまうと試算する。これが13年当時だったら、目減りは4.46%だったろうという。

同様にJPモルガン・アセット・マネジメントは、米国債の全イールドカーブが1%上がると、30年債が19%減価すると見積もっている。2年債に対しては減価率は2%と推計している。

<先送りに警告も>

かといってテーパー・タントラムの発生を先送りすれば、事態はさらに悪化するのではないかと警鐘を鳴らす声も聞かれる。

JPモルガン・アセット・マネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト、デービッド・ケリー氏は、問題を人間にたとえて、2歳児の「かんしゃく」のほうが、14歳が怒って暴れだすより、まだしのぎやすいかもしれないと話す。

ただし、ほとんどの政策担当者は急がない姿勢をはっきり打ち出している。例えばクリーブランド地区連銀のメスター総裁は、FRBはテーパー・タントラムを招かないことに腐心しており、米経済がもっと強固になるまで支援措置を撤回しないと明言した。

主要中銀はインフレに金融引き締めで応じる意欲を以前より弱め、物価上昇が行き過ぎる事態になっても低金利を続けるとも繰り返し表明している。米大手資産運用会社ブラックロックは、13年に起こした騒ぎと、今の世界の債務増大によって、中銀はどうにかして市場の「かんしゃく」をなだめざるを得ない立場に追い込まれるとみている。

(Dhara Ranasinghe記者、Karin Strohecker記者)

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