ニュース速報

ビジネス

アングル:テスラのビットコイン投資、株価巡るリスク増大警戒も

2021年02月13日(土)08時06分

 米電気自動車メーカー、テスラの株式に投資している人々は今、マスクCEOが明らかにした15億ドルのビットコインへの投資が、果たしてテスラによるビットコイン市場に与えたほどのメリットを同社にもたらしてくれるのか、と首をひねっている。写真はイメージ。9日撮影(2021年 ロイター/Dado Ruvic)

[11日 ロイター] - 米電気自動車(EV)メーカー、テスラの株式に投資している人々は今、マスク最高経営責任者(CEO)が明らかにした15億ドルの暗号資産(仮想通貨)・ビットコインへの投資が、果たしてテスラによるビットコイン市場に与えたほどのメリットを同社にもたらしてくれるのか、と首をひねっている。

テスラが8日に手元資金の8%近くをビットコイン購入に向けたと表明して以来、ビットコイン価格は過去最高値を更新し、今週だけで16%余り高騰している半面、テスラ株は6%近く値下がりした。

ツイッターの最高財務責任者(CFO)がCNBCテレビでビットコインを資産に加えることを検討中と語り、テスラに追随する企業は今後複数出てくるかもしれない。しかし、株主はテスラ株にとってビットコイン投資が株価をより不安定にしかねないと懸念している。

2015年からテスラ株を保有するベーカー・アベニュー・ウェルス・マネジメントのチーフストラテジスト、キング・リップ氏は「ビットコイン投資のせいで、テスラ株のボラティリティーは増大するだろう。この投資はテスラよりもビットコインに有益だということだ」と指摘する。

エイゴン・アセット・マネジメントの元最高経営責任者(CEO)、ゲーリー・ブラック氏は19年以降、テスラに強気の姿勢だったが、8日に株式を売却したとツイッターに投稿した。今年の納車目標を示さなかったことや、リスク性が高まった資産配分戦略などが理由だ。その上で、テスラは常に高めのリスクを帯びているものの、ビットコインに15億ドルを振り向けると一層危険が増す、と投稿でつぶやいた。

ビットコインは価格の振れが大きく長期的な価値の評価が難しい点も、投資家の不安を誘っている。サクソ・バンクの株式戦略責任者、ピーター・ガーンリー氏は調査ノートに「マスク氏はテスラを(会計上の)多大な時価評価リスクにさらしてしまった」と記した。

ガーンリー氏によると、運用資産におけるテスラ株の比率が大きいARKインベストのような投資家にはリスクがある。ARKは主力ファンドの運用資産の8.75%をテスラ株が占めている。もっともARKの調査ディレクタ-、ブレット・ウィントン氏は、テスラのビットコイン投資を「現金の適切な使い道だ」と肯定し、テスラに対する見通しを変えていないとコメントした。

一方で、テスラの債券投資家は、ビットコイン投資に不安一辺倒というわけではない。

テスラのリース事業に連動する資産担保証券(ABS)を保有するブラウン・アドバイザリーの債券責任者トム・グラフ氏は「もし私が(テスラの)無担保社債を持っていれば、ビットコイン投資を非常に不快に思うだろう」と認める。ビットコインの現金化は簡単かもしれないが、どのような種類の価値を得られるか、あるいはそうした価値をどれだけのスピードで実現できるかは分からないと解説する。

しかし、テスラの債券を保有する別の投資家は、同社が社債保有者向けの十分な返済用の現金を持っている以上、ボラティリティーがより重大な問題になるのは、債券投資家より株主の方だと説明した。

リフィニティブのデータに基づいてテスラの株式保有構成を見ると、筆頭株主はマスク氏。以下、キャピタル・ワールド・インベスターズ、バンガード・グループ、ベイリー・ギフォード、ブラックロック・インスティテューショナル・トラストと続く。バンガードはコメントを拒否し、キャピタルとブラックロックは、取材に対して回答がなかった。

ベイリーのパートナー、ジェームズ・アンダーソン氏は英紙タイムズに、テスラのビットコイン投資は「よし」とするが、自分の会社としては資産に組み込んでいいビットコインの上限を設けることを議論するだろうとも述べている。

ただ、いくらこうした不安があったとしてもなお、テスラ株を持ち続けていた投資家が、これまで相当な見返りを得ていることも確かだ。何しろ過去12カ月の上昇率は、422%を記録したのだから。

実のところ、マスク氏の際立った個性が人気を集めている点からすれば、多くの長期投資家は結局、ビットコイン投資を好意的に受け止めるかもしれない。

テスラ株を保有するタナカ・キャピタル・マネジメントのグラハム・タナカ社長兼最高投資責任者は「長い間、あの会社を追いかけてきたが、彼らは数々の正しい大きな決断を下している」と述べた。

(April Joyner記者、Kate Duguid記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中