ニュース速報

ビジネス

アングル:預金800兆円突破、消費下支えに日銀も期待 コロナ不安払拭が条件

2021年01月14日(木)19時04分

 1月14日、膨張を続ける預金が将来の消費を下支えするとの期待感が、日銀や一部エコノミストの間で出ている。写真は渋谷で、2020年2月撮影(2021年 ロイター/Athit Perawongmetha)

和田崇彦

[東京 14日 ロイター] - 膨張を続ける預金が将来の消費を下支えするとの期待感が、日銀や一部エコノミストの間で出ている。新型コロナウイルス対策で支給された現金が昨夏の好調な家電販売につがったこともあり、観光や投資商品購入の素地になるとみられている。一方、コロナの感染拡大は止まらず、再発令された緊急事態宣言が延長される可能性もある。消費が再び活性化するには、ワクチンの普及などでコロナの恐怖心が払拭されることが条件になりそうだ。

<現金給付「使い残し」への期待感>

日銀が12日に発表した2020年12月の貸出・預金動向によると、都市銀行・地方銀行・第二地方銀行の3業態計の預金の平均残高は802兆8673億円と、初めて800兆円の大台を超えた。

日銀内では、積み上がった個人預金は消費の、法人預金は資金繰りの下支えになるとの期待感が出ている。

加藤毅名古屋支店長は14日の支店長会議後の記者会見で、消費抑制と可処分所得の増加で「消費性向が今、かなり下がっている。過去の長期的なトレンドから見てもかなり低い水準になっている」と指摘。下がりすぎた消費性向は一定程度持ち直すのが過去の傾向のため「消費性向が上がっていくとすれば、もう少しコロナの状況が落ち着いてくる中で貯蓄が取り崩される形で消費が増えるだろう」と述べた。

コロナ対策の一環で昨年支払われた特別定額給付金が家電売り上げ等の押し上げ要因となったが、消費されずに残っている現金が個人預金に含まれているとみられ、日銀ではそうした預金が消費に回ることへの期待感もある。

みずほ総合研究所の酒井才介・主任エコノミストも、積み上がる個人の預金が「将来的な消費のバッファーになる」とみている。コロナへの警戒感が後退すれば、抑制していた消費意欲を実現するかたちで旅行や投資商品などの購入が活発になると予想している。

一方、新型コロナの感染拡大を受け、企業は前倒しで厚めに資金を確保してきた。再び緊急事態宣言が出されたものの、日銀では、積み上がった預金も一助となって、企業の資金繰りには余裕があるとの見方が出ている。

12月の貸出動向では地銀・第二地銀の貸出平残が前年比5.0%増と前月の5.2%増から伸びが鈍化。「毎年出る年末要因による資金需要の高まりが例年に比べて弱めだった」(日銀金融機構局の河西慎・金融第1課長)という。

<消費の本格回復は22年以降か>

しかし、消費の再活性化はコロナへの警戒感の払拭が条件になるとみられている。第一生命経済研究所の永濱利廣・首席エコノミストは「新型コロナウイルスへの恐怖心が払拭されない限り、預金が積み上がっても消費には回らない」と指摘する。

政府は13日、緊急事態宣言の対象地域を11都府県に拡大。みずほ総研は個人消費の減少額を2兆円程度と試算している。緊急事態宣言は1カ月では終わらず、3月末まで続くと想定。酒井氏は、消費が本格的に回復するのは、ワクチンが国民に広く普及するとみられる2022年以降とみている。

日銀が12日に公表した「生活意識に関するアンケート調査」では、コロナの感染が流行し始めた20年3月より前と比べて、娯楽・レジャーの外出が「減った」との回答が88.5%に上った。また、在宅時間を楽しむための支出が「増えた」との回答が32.0%だったのに対して、「変わらない」との回答は56.2%。今後、在宅時間を楽しむための支出を「変えない」との回答も70.6%を占め、消費に慎重な姿勢が浮かんだ。

感染抑止に向け、外出自粛や飲食店内での飲食回避の動きが続き、当面はサービス消費を中心に手控える動きが続きそうだ。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「所得や賃金が減少する以上に消費が落ち込んでいる。貯蓄が増える傾向はこれからも続くだろう」と指摘。「800兆円は通過点に過ぎない」と話している。

(和田崇彦 編集:石田仁志)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中