ニュース速報

ビジネス

焦点:苦悩するFRB、「ポスト感染拡大」の新パッケージ策定へ

2020年11月26日(木)07時26分

11月23日、新型コロナウイルスワクチンの供給が数週間以内に始まる見通しとなり、米連邦準備理事会(FRB)は近く、米経済がパンデミック(感染症の世界的流行)後の世界へ移行するのを支えるためのプラン策定を迫られそうだ。写真はワシントンのFRB本部で2019年3月撮影(2020年 ロイター/Leah Millis)

[ワシントン 23日 ロイター] - 新型コロナウイルスワクチンの供給が数週間以内に始まる見通しとなり、米連邦準備理事会(FRB)は近く、米経済がパンデミック(感染症の世界的流行)後の世界へ移行するのを支えるためのプラン策定を迫られそうだ。しかし、移行の道のりは険しいものになるかもしれない。

FRBの課題は、全ての人を救うように設計された危機対応策から、ポストコロナ経済への切り替えをいかに進めるかだ。企業や家計は変容した経済への適応に苦しむだろうし、企業の新たな破綻が避けられない恐れがある。

最近、FRBの議論が次の段階に進むのを加速させる2つの出来事があった。ムニューシン財務長官がFRBの緊急融資プログラムの一部を12月末に終了するという予想外の決断を示したことと、新型コロナワクチン開発の進展だ。

新型コロナを巡る状況のこうした変化を受けて、FRBは来月15─16日の連邦公開市場委員会(FOMC)で今後数カ月のプランについて、より具体的に言及する可能性がある。

アナリストはFRBが借り入れコストを抑制し続けるのに活用している国債買い入れ、つまり量的金融緩和(QE)のペースや買い入れ対象の種類について、これまでよりも安心感を高めるような姿勢を提示する公算が大きいとみている。

来月には対象を絞り込んだ緊急プログラムの代替策を打ち出し、ワクチン供給開始の地ならしもするということだ。ワクチン供給が始まれば、市場では信頼感が回復して見通しが改善し、金利が上昇するだろう。

エバーコアISIのクリシュナ・グハ副社長は、FRBの緊急融資プログラムの一部が来月終了すると「金融市場の環境は悪いタイミングで引き締まる」と指摘。その結果、FRBが12月のFOMCでQEを強化する可能性が高まることもあり得るとの見方を示した。

<QEが主な政策手段>

QEの強化として考えられる選択肢は、FRBが買い入れる国債の種類の組み合わせの手直しか、現在月額1200億ドルとなっている買い入れ規模の増額、あるいはこの両方の導入だ。

緊急融資プログラムが終了する見通しとなり、目下のところ、国債買い入れはFRBが信用状況に働き掛けることができる主な政策手段となっている。

FRBの国債買い入れは広範囲にわたり借り入れコストを押し下げ、家計や企業が借り入れにより住宅や自動車など大型の買い物をするのを促し、株式などの金融資産の価格を支えている、と考えられている。

緊急融資プログラムは国債買い入れよりも的が絞られており、例えば、企業が妥当な金利で社債を発行して資金を調達したり、州政府など地方自治体が運営資金を確保したり、中小企業が融資を受けることができるよう設計されている。

こうした政策は、永続的な導入が想定されていなかった。しかし、FRB当局者はこのプログラムの打ち切りの準備もしていなかった。緊急融資プログラムはFRBスタッフが時間をかけて作り上げたもので、新型コロナ危機終結後に向けた金融面のつなぎ策の一部とみなされていた。

新型コロナ危機は、まだ収束していない。ワクチンが行き渡るには数カ月かかるだろう。現下では複数の州で感染者数が過去最高を記録し、企業に対する制限を再び強化されている。

<一部企業は破綻へ>

しかし、数カ月に及ぶロックダウン(都市封鎖)や恐怖心のまん延、人々の行動変容により、最終的に生活が「普通」の状態に復帰しても、全てが新型コロナ前に戻ることはないだろう。

連邦政府の支援やFRBによる低金利政策で保護されてきた企業は、ワクチン供給で経済が安全に全面再開できても、経営が正常な状態に戻らないかもしれない。記録的な水準の負債を抱えたままとなる企業も多いだろう。こうした負債を返済するのは困難かもしれない。

回復が出遅れる産業や需要の鈍い業種に従事する人々は、再訓練で新たな足掛かりを得るのに、より長い時間が必要だろう。

FRBは今年、景気を支えるために利下げを実施し、労働者が職場に戻り、米国の雇用が「最大化」するまで金融緩和を続けると約束している。

こうした政策がどの程度続くのかは、数カ月間におよぶ隔離措置や不透明感によって、米経済がどの程度深く変化したかによって決まるだろう。新型コロナ危機対応をどう終わらせるか判断することが最重要な課題であるFRBにとって、最初の取り組みは現在の状況で「正常」とは何かを定義付けることだ。

カーライル・グループのグローバル調査ヘッド、ジェーソン・トーマス氏は、FRBは2020年に最も経営が悪化した企業以外は経営の継続を可能にしたが、21年は家庭や企業が昔の支出パターンに戻るか新しい方式に進む中で、例えばホテルや航空、商用オフィスビルなどの業種が長期にわたって苦闘し、一部は破綻するとみている。

トーマス氏は、FRBは支援がなければ破綻しただろう企業が経営を続けられるようにするための環境を作ったことについて、見直しを開始せざるを得ないと指摘。こうした政策はパンデミック下では理にかなった対応だが、長期的には経済にとって健全ではないと語った。

(Howard Schneider記者)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米シャーロットの移民摘発、2日間で130人以上拘束

ビジネス

高市政権の経済対策「柱だて」追加へ、新たに予備費計

ビジネス

アングル:長期金利1.8%視野、「責任ある積極財政

ビジネス

米SEC、仮想通貨業界を重点監督対象とせず
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中