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焦点:米国債利回りスティープ化、全面的な賭けは危険

2020年10月21日(水)13時30分

10月20日、米景気の先行きに楽観論が広がる中、米債券市場では期間が長めの国債の利回りが短めの国債より速く上昇すると予想し、イールドカーブ(利回り曲線)のスティープ化が続くと見込む取引が活発化している。ワシントンの米財務省前で8月撮影(2020年 ロイター/Andrew Kelly)

[ニューヨーク 20日 ロイター] - 米景気の先行きに楽観論が広がる中、米債券市場では期間が長めの国債の利回りが短めの国債より速く上昇すると予想し、イールドカーブ(利回り曲線)のスティープ化が続くと見込む取引が活発化している。しかし投資家は意表を突かれるかもしれない。

来月の米大統領選が混乱に陥ったり、世界的に新型コロナウイルス感染症が再流行したりすれば、安全資産としての米国債に買いが殺到し、カーブはフラット化しかねない。

またアナリストによると米連邦準備理事会(FRB)は、利回りが経済ファンダメンタルズから外れて上昇する兆しが出れば、国債の買いを強化する構えができている。

米政府が追加的な景気対策を実施し、国債発行が増えるとの見方から、米国債のイールドカーブはここ数カ月間スティープ化を続けている。

スティープ化は通常、インフレ率の上昇や景気見通しの改善を示すシグナルと見なされる。

債券市場は、バイデン前副大統領が大統領戦で勝利することを織り込み始めている。バイデン政権になった場合、コロナ禍に対応して数十億ドル規模の追加景気対策が打たれる可能性があるというのだ。

JPモルガン、バークレイズ、BofAセキュリティーズなどの大手銀行はスティープ化取引を推奨。アナリストによると、ヘッジファンドも同取引を大量に行っているため、既に取引の「一極集中」状態が生まれている。

20日には、注目度の高い期間2年と10年の利回り差が6月8日以来で最大となった。7月末に比べると30ベーシスポイント(bp)以上拡大している。期間5年と30年の利回り差も、7月以来30bp以上開いた。

また期間10年と30年の利回り差は2週間前、2016年11月以来の大きさとなった。

BCAリサーチの首席グローバル債券ストラテジスト、ロブ・ロビス氏は、まだスティープ化取引にくみしていない。「成長の足取りは非常に弱く、多大な不透明感があるため、債券市場は安心して利回り上昇やスティープ化の方向にシフトできる状態ではない」と言う。

アルハンブラ・インベストメンツのグローバルリサーチ責任者、ジェフ・スナイダー氏は5年/30年と2年/10年の利回り差がいずれも7月以来の大きさとなったことについて、過去の債券市場の動きと比較すれば大したことではないとみる。

「この動きは市場の振幅にすぎない」とし、FRBの大きな動きにもかかわらず利回りは狭いレンジ内で動いており、景気は依然として下振れリスクの方が大きいと付け加えた。

JPモルガンはリサーチノートで、スティープ化は年末まで続くと予想しながらも、スティープ化取引のポジションが積み上がり過ぎているため目先はリスクがあると指摘した。

トロントの独立系トレーダー、ケビン・ミュイール氏は、全般には一段のスティープ化を見込んでいるが、5年物と30年物の利回り差などで「青天のへきれき」のように逆に30bp程度の調整が起こり、一部の市場参加者が打撃を被ると予想した。

アナリストはまた、米大統領選の結果決着に日にちがかかるようなら、期間が長めの国債で大量の買い戻しが起こり、利回りが低下しかねないとみている。

<FRBと闘うな>

しかもFRBは、少なくともあと3年は政策金利をゼロ%近傍に据え置くと約束している。

FRBは3月以来、中短期債を中心に2兆ドル近くの国債を購入した。

インキャピタルの首席マーケットストラテジスト、パトリック・リアリー氏は「FRBが待機しているため、投資家とトレーダーは過度なショート取引には慎重になりそうだ」と述べた。

低金利を背景に、米企業による社債発行が活発化している。BCAのロビス氏は、利回りが上昇して企業の起債意欲に水を差し、景気回復を台無しにすることは、FRBとして最も避けたい事態だと説明した。

今のところ、FRB幹部らは債券購入の性質を変え、期間の長い債券にシフトする計画は示していない。しかしリアリー氏は、金利があまりに速く上昇するようなら「FRBはそうした政策シフトを行うだろうと考えておくのが安全だ。特に(国債利回りの上昇が)株式市場の調整を引き起こした場合には、そうなりそうだ」と話した。

(Gertrude Chavez-Dreyfuss記者)

ロイター
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