ニュース速報

ビジネス

焦点:FRB頼みのドル調達、円債市場での外銀のプレゼンス低下に波及

2020年07月10日(金)12時07分

 7月10日、米連邦準備理事会(FRB)が他中銀にドル資金を貸し出す流動性スワップは、民間金融機関のドル不足を解消し、調達コストの押し下げに奏功した。写真はワシントンで昨年3月撮影(2020年 ロイター/Leah Millis)

森佳子

[東京 10日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)が他中銀にドル資金を貸し出す流動性スワップは、民間金融機関のドル不足を解消し、調達コストの押し下げに奏功した。他方、FRBに依存したドル調達は、為替スワップ市場の流動性低下や円債市場における外資系プレーヤーのプレゼンス低下など思わぬ波及効果を招いている。

<FRBのドル供給に依存する日銀>

コロナ禍のグローバルなドル不足解消のためにFRBが3月に拡充した中央銀行とのドル流動性スワップ協定は、ピーク時に残高が4489億ドルに達したが、9日時点で1530億ドルまで減少し、ドル不足が緩和したことがわかる。

しかし、各国中銀の調達シェアをみると、日銀が1120億ドルと全体の73%を占める最大の借り手で、2位の欧州中央銀行(ECB)の170億ドルを大きく引き離している。

日銀のドル調達額は5月下旬のピーク時から半減したとはいえ、ECBの調達額がピーク時から9割減となったのに比べ、その圧縮ペースは緩慢だ。

マイナス金利政策による国内運用難から外債投資需要が根強いことは日本も欧州も同じだが、なぜ日本だけドル調達のFRB依存からなかなか抜け出せないのか。

三菱UFJリサーチアンドコンサルティングの主席研究員、廉了氏は「FRBのスワップ枠を使えば約3カ月間の資金を安定的に確保できる安心感」に加えて、「欧州の投資家には、フランス、スペイン、イタリアといった相対的に利回りが高い投資対象国が域内にあり、為替リスクを取らずに投資できるが、日本の場合は近隣にそうした国々がないため、利回り確保でドル資産が選好されやすい」ことが原因とみている。

<ドル不足緩和の安全弁に>

金融機関がFRBの流動性スワップという「官製のドル調達のルート」を確保したことで、金融市場には変化が表れている。

その一つがクロスカレンシースワップにおけるドル調達コストの顕著な低下だ。

3カ月物の円投/ドル転スワップ経由のドル調達コストは、3月24日につけた直近のピーク2.37%から、現在0.44%付近まで低下している。

同様に、ユーロ投/ドル転スワップでも、3月半ばに一時1.68%に達した3カ月物のドル調達コストが、足元で0.34%付近まで低下している。

バークレイズは7月7日のリポートで「(FRBの)スワップ枠はドルが稀少になる、または、スプレッドが拡大した場合に速やかに作動する安全弁として機能している」と評価し、外国銀行の在米支店はスワップ枠利用に伴うスティグマを乗り越えたようだと指摘する。

<「打ち出の小槌」失う欧米銀、円債市場でプレゼンス低下>

FRBの流動性スワップでは、各国中銀がオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)金利に0.25%ポイント上乗せした金利で、1週間または84日間のドル調達ができる。現在3カ月物ドルOISは0.068%で、最終的な調達コストは0.318%となる。

FRBのおかげで、安価で安定的なドル調達ルートを確保した邦銀の多くは、為替スワップを介したドル資金調達を大幅に削減した。この結果、従来為替スワップで邦銀の取引相手だった大手欧米銀には少なからぬ変化が生じている。

為替スワップ取引では、邦銀のドル需要が高まりドル調達コストが割高になると、これに呼応して、欧米銀の円調達コストが割安となるため、これまで欧米銀は安価な円資金を潤沢に調達できた。

しかし、邦銀のドル調達の源泉が為替スワップからFRBにシフトしたことで、欧米銀は低コストの円調達と効率的な円資産運用という「打ち出の小槌」を失った。

日本証券業協会によると、外国人による国債投資(除く国庫短期証券)は、2月に3兆3332億円と大幅な買い越しだったが、3月には1兆3329億円の売り越し、4月、5月の買い越しはそれぞれ3868億円、6804億円と小ぶりになっている。

「外国人によるJGB投資は、月間3兆円レベルの買い越しから激変した。特に3月の売り越しはFRBのドル流動性スワップの利用が日本で拡大した時期とぴったり重なる。FRBの流動性スワップは、円債市場における外資系プレーヤーのプレゼンス低下という波及効果をもたらした」と廉氏はみている。

<円資産へのコミットメント低下と為替市場>

外資系金融機関の円資産へのコミットメントが低下する中、為替市場ではドル/円の売買高低迷が目立ってきた。

日銀の統計によると、東京市場のドル/円スポット取引の出来高が20億ドル台またはそれ以下に落ち込んだのは、昨年はクリスマスを含む3営業日だけだったが、今年は既に10営業日となっている。

うち8日はFRB流動性スワップで日銀がドルの借入残高を急激に膨らませた3月末以降に起きている。

世界の金融機関がFRB依存のドル調達という安全弁を確保する一方、金融市場は流動性と自主性の低下という高い対価を支払っているのかもしれない。

(森佳子 編集:石田仁志)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大

ビジネス

中国、来年の消費財下取りに89億ドル割り当て スマ

ワールド

カンボジアとの停戦維持、合意違反でタイは兵士解放を

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席とサプライチ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中