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アングル:日本株、理屈抜きの上昇 踏み上げ相場の様相を強める

2020年05月28日(木)13時48分

 5月28日、「経済活動再開に対する期待はわかるが、上昇スピードが速いことについて理解に苦しむ」──こうした声が聞かれるほど、日本株は理屈抜きの上昇相場になってきた。写真は東京証券取引所で2015年7月撮影(2020年 ロイター/Yuya Shino)

水野文也

[東京 28日 ロイター] - 「経済活動再開に対する期待はわかるが、上昇スピードが速いことについて理解に苦しむ」──こうした声が聞かれるほど、日本株は理屈抜きの上昇相場になってきた。その背景には、積み上がった売りポジションが逆回転し、踏み上げの様相を強めるなど需給面の好転がある。

<浮動株減少と売り方の買い戻し>

かつての株式市場では、需給の思惑だけをベースに動く個別銘柄が存在した。浮動株の少ない中、上昇を続け、売り方の踏み上げを誘うというのが典型的な動きだ。現在の相場上昇はそれに近いメカニズムがもたらしている。日銀のETF購入、GPIFの長期投資、企業の自社株買いなどで浮動株が減少する一方、裁定売り残の積み上げや先物の売り仕掛けなどで売りポジションが増加し、これらの買い戻しで株価が上昇する、という流れだ。

市場では「日本株の上昇が加速する中で、売り方は踏み上げざるを得ない。経済活動再開で上がっているが、需給思惑だけで動く説明しにくい上昇となったのも確かだ」(国内証券)との声が聞かれる。

東京証券取引所が27日に発表した5月18日─5月22日のプログラム売買状況によると、金額ベースの裁定売り残は2兆5707億円まで増加。米中対立による経済減速が懸念された昨年のピークである、9月2日─9月6日の2兆0666億円を大幅に上回る。日銀によるETF買いは年間で12兆円。その2割強という膨大な額が将来的に買い戻されることになるのだ。

市場関係者によると「昨年は裁定売り残が2兆円まで膨らんだ後、年末にかけて日経平均は大幅上昇した。その連想が働いている」(東海東京調査センター・シニアストラテジストの中村貴司氏)という。

<海外勢の買い、持たざるリスク>

裁定売り残の積み上がりは、時として想定外の上昇をもたらす。歴史を紐解けば、バブル期に「昭和天皇のXデー」が懸念材料となっていた1988年12月、12月限の最終売買日(当時はSQが存在しなかった)に膨大に積み上がった裁定売り残の解消で、日経平均は史上初の3万円乗せを達成した経緯がある。理屈では説明できない上昇相場が起きることは少なくない。

財務省が27日に公表した5月17日―5月23日の対外及び対内証券売買契約等の状況 (指定報告機関ベース)によると、対内株式投資は754億円と久々に買い越しとなった。これについて岡地証券・投資情報室長の森裕恭氏は「海外勢の長期資金が日本株に対して持たざるリスクを感じて買い姿勢を強めた可能性がある」と指摘する。

「こうした実需買いが入ると、踏み上げ相場になりやすい。想定以上の上昇となる可能性も出てきた」(東海東京調査センターの中村氏)との声も一部には出ている。

一方、テクニカル面では、27日時点でRSIが78%、騰落レシオが131%と行き過ぎを示す指標が目立ち「過熱感が強くなってきたほか、上回ってきた200日移動平均線近辺では戻り売りが出やすい。今後は上値が重くなる可能性もある」(野村証券・エクイティ・マーケット・ストラテジストの澤田麻希氏)と警戒する向きも少なくない。

(編集:石田仁志)

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