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焦点:難解な中銀の言い回し、市場は「暗号解読」に四苦八苦
10月25日、中央銀行の政策担当者は、まるで古代ギリシャの神託のように1つの言葉を使って、あるいはその言葉を発しないことで、多くのメッセージを伝える能力を持つ。写真は7月、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長(2018年 ロイター/Mary F. Calvert)
Sujata Rao
[ロンドン 25日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)が追加利上げを決めた9月下旬の連邦公開市場委員会(FOMC)終了後に公表した声明文は250の語句からなっていたが、市場の関心はただ1つ、「緩和的」という表現に集中していた。そしてその言葉が、実際の声明文に記されてさえいなかった点に大きな意味があった。
債券利回りを何年もわたって押し下げてきた声明文における「緩和的」の表現が消えたことで、投資家はFRBの政策運営姿勢がもはや金融緩和ではなく、少なくとも当面は金利が上がりそうにないシグナルだと受け止めた。
その1週間後、パウエルFRB議長は、「緩和的」の削除は単に政策運営が想定に沿って進められている意味しかないと強調したが、同氏が「金利水準は中立金利までまだ相当な距離がある」と発言すると米長期金利は7年ぶりの高水準に達した。
このように中央銀行の政策担当者は、まるで古代ギリシャの神託のように1つの言葉を使って、あるいはその言葉を発しないことで、多くのメッセージを伝える能力を持つ。
中銀当局が言い回しに注意してきたのは今に始まったことではないとはいえ、資産買い入れ縮小や政策金利転換の局面に入っている現状では、市場に将来の政策に関する適切なシグナルを送る重要性はかつてないほど大きい、と彼らも認識している。
だがFRBだけでなく欧州中央銀行(ECB)も市場を混乱に陥れた。ドラギ総裁が先月、物価の「活発な」上昇に言及して債券利回りが高騰した後、この発言は政策的なシグナルのつもりではなかったと釈明したからだ。
そこで市場では、中銀からの何やら意味ありげな表現をどの程度重視すべきなのか、また独特の言い回しは世界経済にとってメリットより弊害の方が大きいのではないかといった議論が盛んになっている。
BNPパリバ・アセット・マネジメントのマクロ調査責任者で、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)のエコノミストを務めたリチャード・バーウェル氏は「利上げしたいならそう言えば良い」と述べ、中銀が専門用語での対話にこだわることに疑問を投げかけている。
バーウェル氏が例に挙げたのは、ECBが保有債券の償還資金再投資を「意図」し、利上げを「想定」すると使い分けていることだ。
「想定と意図の間にはコミットメントの差があるのだろうか。『暗号表』に照らせば、再投資に比べて金利のガイダンスに対するコミットが弱いとうかがえる。しかしそれならどうして明言しないのか」と批判する。
国際決済銀行(BIS)が今月公表した論文でも、さまざまに解釈できる政策の手掛かりを提供するメリットは乏しいだけでなく、経済に傷を負わせる恐れさえあるとの主張が展開されている。
「フォワードガイダンスは、受け取る側が将来の景気刺激を約束しているとみなした場合に最大の効果を発揮することが分かる。つまり中銀が、政策の枠組みを説明する際にこのガイダンスをより明確にできない限り、経済成長を刺激しないという見方が裏付けられる。それどころか実際には経済成長を妨げるかもしれない」という。
またロイターの分析では、FOMCの声明文は金融危機以降、複雑性と玉虫色的な表現がどんどん増してきている。
資産運用担当者の問題としては、こうした難しい言い回しを解釈する最適な手段が何かという点が挙げられる。そして事情に通じた中銀出身者を雇うというのが1つの答えになる。
JPモルガン・アセット・マネジメントのニック・ガートサイド債券最高投資責任者は「中銀出身というプロフィールは、金融政策担当者の意図を読み解く上で非常に役立つ」と話した。
ハイテクも「暗号解釈」に有効だ。プラトルなどの企業は、過去のさまざまな言い回しをパターン化してデータとして蓄積し、中銀が公表した声明文を素早く分析して言い回しが「ハト派的」か「タカ派的」か評価できる。同社のエバン・シュニードマン最高経営責任者(CEO)は、3年前のデータ保存開始以降で、G10諸国の金融政策決定の96%について正確に予見したと胸を張った。
ただ中銀の緩和縮小が進むとともに、多くのアナリストは「行間を読む」作業に疲れ果てた、とこぼす。1990年代に当時のグリーンスパンFRB議長のブリーフケースを見て政策変更があるかどうかを探った経験を持つベテラン中銀ウオッチャーの1人であるチューリッヒ保険