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焦点:神鋼、国内企業の安全性確認でも霧晴れず

2017年10月26日(木)12時40分

 10月26日、製品の性能データ改ざんで信頼性を失った神戸製鋼所。写真は神戸で24日撮影(2017年 ロイター/Thomas White)

[東京 26日 ロイター] - 製品の性能データ改ざんで信頼性を失った神戸製鋼所 <5406.T>。アルミ板などを納入したトヨタ自動車 <7203.T>など発注企業から安全性を確認したとの発表が相次いでいるものの、JIS(日本工業規格)認証の取り消し可能性が浮上しているほか、海外の当局や企業の動向次第では、損害賠償請求額が膨張するなどし、経営に大きな打撃となる可能性もある。近く公表される安全性に関する報告後も、同社の前に立ち込める霧は晴れそうもない。

<安全性の検証、途中でも公表へ>

経済産業省から12日に指示のあった「安全性の検証」の公表は「2週間程度で行うように」と期限が設けられている。

現在、神戸鋼が改ざん前のデータを提供し、出荷先企業がそれを基に安全性の検証を進めている。神戸鋼幹部は「検証結果が出そろった段階で公表と言うよりは、2週間程度という時間軸を優先する」と述べており、早ければ26日にも経産省に報告。直後に公表する見通しだ。

すでにトヨタや日産自動車 <7201.T>など自動車大手は、神戸鋼が直接納入したアルミ板について、自社の安全基準を満たしていることを確認。製缶メーカーや鉄道会社なども、安全性を確認したと公表している。

業界関係者によると、改ざんの規模が最も大きなアルミに関しては、強度が求められる構造部材ではないため、安全性の問題は生じにくいという。業界関係者のひとりからは「安全に問題になるようなデータ不正ではないと思う。リコールはないだろう」との声も聞かれる。

神戸鋼では、現在も製品の自主点検を進めている。データを改ざんした対象製品の出荷先は約500社としているが、同社幹部は、これ以上膨らむ可能性は少ないとの感触を明らかにしている。

<海外当局やメーカーが厳しい対応も>

ただ、国内企業が安全性を確認したとしても、神戸鋼の先行きの霧が晴れるわけではない。

東京霞ヶ関法律事務所の遠藤元一弁護士は、品質要件を満たさない製品に対する顧客による損害賠償、虚偽の表現による不正競争法違反、株価急落による会社幹部に対する株主代表訴訟、海外消費者が求めている集団訴訟などの法的リスクが、神戸鋼にはあると指摘する。

遠藤弁護士は「訴訟費用がどれだけ増えるかを予測するのは難しい」とし、最終消費者が購入した製品のリコールにつながると、補償費用が膨らむ可能性があると指摘した。そのうえで「これが神戸鋼の基盤を揺るがす可能性は、否定できない」と語った。

中でも読めないのは海外の動向だ。「契約違反に対して、海外メーカーの方が厳しい対応をする可能性がある」(業界関係者)という。

米司法省が神戸鋼の米子会社に資料を提出するよう要求したほか、欧州航空安全機関(EASA)は航空機メーカーに対し、合法性が証明されるまで、調達を控えるように勧告した。

司法省の書類提出要求について、のぞみ総合法律事務所の結城大輔弁護士は「詳細が分かっているわけではないが、連邦法の詐欺罪の可能性を見据えて、捜査が始まったと考えるのが一番オーソドックス。司法省が動かなければ民事上で終わったかもしれないが、司法省が動いたことで、刑事事件として展開する可能性があり、深刻だ」と述べている。

<JIS認証取り消しの場合、事業に影響も>

もう1つの懸念は、日本工業規格(JIS)やISOの認証取り消しになる可能性。世耕弘成経済産業相は、認証機関に対し、現在再検査に入っているコベルコマテリアル鋼管の秦野工場だけでなく、他の工場への再審査の検討を指示した。JISの認証を受けている工場は、秦野工場を含めて国内外で20カ所。再審査の結果次第で、状況改善の勧告、認定の一時停止、または取り消しの可能性がある。

秦野工場以外に認証機関が再審査に入った工場があるかどうかは分かっていない。神戸鋼の広報担当者は、JISとISO9001の審査は継続中だとしている。

秦野工場の年間生産量は5万6000トン。そのうち、43%がJISマークを表示していたという。

ある製造業企業の幹部は「自社に置き換えると、JIS認証の取り消しは事業にインパクトがある」と話す。JIS基準があることで、個別に仕様書(スペック)を詰めなくても良いという利点がある、という。

また、公共工事など内外の入札案件では、JISやISOを入札の条件にする場合もあり、そうした事業に影響が出る可能性もある。

一方で、別の業界関係者からは、神戸鋼はJIS基準で取引を行う汎用品よりも、顧客と独自に基準を詰める場合が多く「それほどインパクトは大きくない」との見方も出ている。

ある同業他社には、神戸鋼の代わりに作ることができないか、と言う打診もいくつか来ていると述べている。

ただ、アルミの製造に関しては、国内同業他社も操業率が高く、増産の余裕はない。現時点で、神戸鋼への発注を取りやめ、大きなロットで発注先が変更される事態は起きていないもようだ。

実際、素材メーカーは発注メーカーとともに高品質を求めて製品を作り上げてきた歴史がある。神戸鋼がダメだから、他社に注文を切り替えるというほど、単純な構造ではないと複数の業界関係者は説明する。

SUBARU <7270.T>の吉永泰之社長は25日、記者団に対し「簡単によその会社に代える、転注する問題でもないだろう。技術的にここでしかできないということもあると思う。まずは原因究明して、それから慎重に考える」と述べている。

(清水律子 取材協力:大林優香 山崎牧子 編集:田巻一彦)

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