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焦点:米自動車業界、すでに現れた「後退」の兆し

2017年06月28日(水)08時21分

 6月21日、米自動車業界が下降局面に向かうのではないかという懸念がウォール街でささやかれているが、米ゼネラルモーターズの国内工場で働く数千人の労働者は、すでに厳しい状況にさらされている。写真は1月にレイオフ(一時解雇)が行われたオハイオ州ローズタウンにあるGMの小型車工場。2011年撮影(2017年 ロイター/Aaron Josefczyk)

Nick Carey

[ローズタウン(オハイオ州) 21日 ロイター] - 米自動車業界が下降局面に向かうのではないかという懸念がウォール街でささやかれているが、米ゼネラルモーターズ(GM)の国内工場で働く数千人の労働者は、すでに厳しい状況にさらされている。

マット・ストレブさん(36歳)は、トランプ大統領の就任式が行われた1月20日にレイオフ(一時解雇)された1200人の労働者の1人だ。その日、GMはオハイオ州ローズタウンにある小型車工場の第3シフトを中止したのである。

この工場で作っている唯一の車種、「シボレー・クルーズ」のセダン型は、米国の消費者がスポーツ多目的車(SUV)やピックアップトラックに引き寄せられるなかで、急激に販売台数を減らしていた。

ストレブさんは別の職を探しているが、他企業は採用に消極的だ。GMから呼び戻されれば、辞めてしまうだろうと思っているからだ。 「それは理解している」とコミュニケーション論の学位を持つストレブさんは語る。「とはいえ、苛立たしい状況だ」

ローズタウンや他の自動車工場におけるレイオフは、製造業を軸とする米中西部の経済にとって、そしてトランプ政権にとっても、広範な課題が存在することを示している。

2010年から昨年まで続いた米自動車産業界の好景気は、製造業における雇用創出を力強く牽引してきた。このブームが縮小することによって、製造業中心の州でトランプ氏が大統領選で勝利を収める鍵となった米国の生産と雇用創出の展望が脅かされている。

「問題は経済だ、トランプ氏の発言ではない」。ローズタウンにあるGMのスタンピング工場の労働者を代表する全米自動車労働者組合(UAW)系の労組ローカル1714のロバート・モラレス委員長はそう語る。「トランプ氏が『クルーズ』を毎月1万台買ってくれたとしても、第3シフトを復活させることはできない」

米連邦準備理事会(FRB)が15日発表した5月の米鉱工業生産指数は、製造業が0.4%低下。過去3カ月で2カ月目の低下であり、自動車・部品が2%減少したことが一因となっている。

ブルッキングス研究所のマーク・ムロ上席研究員は政府統計をもとにデータをまとめ、自動車産業が雇用創出に与える影響が、近年では、その産業規模以上に大きくなっており、2015年と2016年の米製造業における新規雇用全体の60─80%を担っていると指摘する。

ところが、今年第1四半期には、製造業部門において4万5000人分の新規雇用が生まれたが、自動車産業の貢献は2%以下だった。

「ここ3─4年間、自動車が製造業部門をけん引してきたという点について異論の余地はない」とムロ氏は言う。「自動車業界が失速すれば、ひどく活気のない展望が残される」

自動車業界における長期的なレイオフは、直接関係する地域社会や州の経済に打撃を与える可能性があるが、数十年にわたり好景気・不景気の波を経ているだけに、自動車製造の中心地にある多くのコミュニティでは多様化が進んでいる。

オハイオ州のマホーニング・バレーは、かつて隆盛を誇った鉄鋼産業の崩壊による大打撃を被ったが、シェールガス掘削ブームが、自動車工場における雇用削減を相殺することに貢献している。

ローズタウンのアルノ・ヒル市長によれば、同市は好景気のあいだに公債返済のための資金を蓄積しており、新たなビジネスも参入してきているという。その中には、地元で生産される廉価な天然ガスを燃料に用いる、現在総工費9億ドルで建設中の発電所もある。

1990年代初頭には税収の85%がGMに依存していたが、現在ではその比率は40%まで下がっている、とヒル市長は言う。

「GMは依然としてマホーニング・バレーの花形だが、幸いなことに、経済の多角化を進めることができた」とヒル市長。「レイオフされた労働者は苦しんでいるが、われわれにとって、かつてほどの痛手にはならない」

ローズタウンの労働者たちは、GMによる支援を受けながら、レイオフによる打撃を緩和する対策をとっている。

ストレブさんの妻は、学位取得後に就職する予定となっている。ストレブさん自身はかつて就いていた郵便配達の仕事に戻りたいと考えている。一方、GMは事前にレイオフを予告していたため、ストレブさんも以前より貯蓄を増やし、支出も大幅に切り詰めてきた。

「自動車業界には波があり、これまでも常に良いときと悪いときがあった」とストレブさんは言う。「今回、またローズタウンにとって辛い時期がめぐってきただけだ」

<セダンの販売低迷>

米自動車販売の減少は、2007─2009年の金融危機時に見られた急激な崩壊に比べれば、まだましだ。当時は新車需要が数十年ぶりの低水準にまで落ち込んだ。

とはいえ、ほぼすべての車種に対して大きな需要があり、中西部の組立工場・部品工場がフル稼働状態になるような時期は、すでに過ぎ去ってしまった。最近の販売傾向をみると、消費者の選別がさらに厳しくなり、旧型車や特に小型車離れが目立っている。

2010年から、1755万台という過去最高の新車販売台数を記録した2016年に至る好景気の大半を通じて、乗用車のシェアは、「小型トラック」、つまりピックアップトラックやSUV、クロスオーバー車に対して減少を続けた。

2012年に販売台数全体の51.32%というピークを記録した後、乗用車のシェアは2016年には40.4%まで低下した。この減少分は、自動車組立工場7─8カ所分の生産台数に相当する。

今年の1─5月には、小型トラックの販売台数が4.7%上昇する一方で、セダンの販売台数は11%減少した。

利益悪化につながる値下げを回避し、中古車価格の下落を反転させるため、自動車メーカーはさらに大幅な生産削減を命じている。

今年に入ってい以来、GMは5000人以上をレイオフしている。これには、中型セダン「シボレー・マリブ」を生産するカンザス州フェアファックス工場の1000人も含まれている。またGMは、同車種を生産していたランシングの工場でも、同工場でのSUV「GMCアカディア」生産終了を理由に、1100人をレイオフしている。

今年の夏は、さらに多くのGM労働者が暫定的なレイオフの対象となるだろう。ローズタウンは今夏、5週間にわたって操業を停止する予定だ。通常2週間の夏季休業に比べ、大幅に長い。

レイオフされたGM労働者の多くは、他工場での一時雇用を見つけるか、大型SUVの生産を順調に続けるテキサス州アーリントンなどの工場へと恒久的に移籍している。だが、こうした臨時配属のために、彼らは自宅から数百マイルも離れた場所に移動しなければならない。

GMがセダンを生産しているグランドリバー工場(ミシガン州ランシング)の労働者を代表する労組UAWローカル652のランディ・フリーマン委員長は、労働者を再雇用しようというGM側の努力に満足しており、会社側との関係は「改善傾向にある」と話す。

ガソリン価格の急騰でもない限り、セダンの組立に従事する米国労働者に対する脅威が緩和する可能性は低い。

フォード自動車は20日、小型車「フォーカス」の生産を中国に移転させる計画を発表し、長期的な米小型車需要について悲観的な見通しを示した。現在「フォーカス」を生産しているミシガン州の工場では、2018年にトラックやSUVの生産に切り替えられると予想されている。

GMのローズタウン工場やランシングのグランドリバー工場では、UAWの代表者たちが、品質改善に力を注いでいると語る。そこには、GMが今後新たなトラックやSUVの生産拠点を探すときに、彼らの工場を選んでほしいという期待がある。

例えばローズタウンでは、「クルーズ」の走行性能向上につながる部品に対し現場レベルでの技術革新を加えたことで、同工場が品質関連の賞を受けた、と組合職員は胸を張る。

「可能な限りベストな製品を作ろうと、われわれは懸命に努力している」と、ローズタウンで労組UAWローカル1112の委員長を務めるグレン・ジョンソン氏は語った。「自ら手を挙げて、会社側に、『われわれの能力を見てくれ』と言えるように、だ」

(翻訳:エァクレーレン)

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