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焦点:経済対策にリニア建設費や中小企業対策、外為特会資金の活用も

2016年07月01日(金)16時50分

 7月1日、政府が今年秋に取りまとめる経済対策の中心となる主要な政策項目として、リニア新幹線の建設費や北陸、九州、北海道新幹線の延伸費用、英国民投票後の円高に対する中小企業の資金繰り対策が浮上している。写真は都内で2月撮影(2016年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 1日 ロイター] - 政府が今年秋に取りまとめる経済対策の中心となる主要な政策項目として、リニア新幹線の建設費や北陸、九州、北海道新幹線の延伸費用、英国民投票後の円高に対する中小企業の資金繰り対策が浮上している。同時に財源として、建設国債や財投債の発行のほか、外国為替特別会計の活用も上がっている。ただ、いずれの財源候補にも政府内に異論があり、早ければ8月中とみられる公表まで、かなりの曲折がありそうだ。

<交通インフラ支援に注力>

複数の政府関係者によると、経済対策の規模は10兆円程度を前提に議論が進みそうだ。対策のうち、英国のEU(欧州連合)離脱決定に伴う影響緩和策として、中小企業の資金繰り対策が挙がっている。

日本政策金融公庫の出資金増額や地方の信用保証協会の強化などを通じ、中小企業の貸付金利優遇策をこれまで以上に推し進める。英EU離脱決定後の円高・株安の進展具合では、この分野への資金供給の規模が膨らむ可能性もある。

陰りが見え始めたインバウンド消費を押し上げる狙いで、リニア新幹線建設費や、北陸・北海道・九州新幹線の延伸、前倒し整備も盛り込まる予定。交通インフラの強化が、中長期的な海外旅行者の呼び込みを活性化させ、インバウンド消費によって地方経済をサポートする。

2016年度予算では、これらの費目で754億円(全体の事業費は2050億円)が計上されたが、今回の対策ではマイナス金利を活用した財政投融資の追加計上が議論される予定。

<1億関連は給付金ラッシュも>

また、1億総活躍社会プランの一部前倒し実施も盛り込まれそうだ。結婚支援給付金や子育て支援、奨学金拡充、保育士待遇改善などのうち、前倒し可能な項目をどのように絞るか議論。これらの費目は、総額で2000─3000億円程度の費用計上が見込まれれているが、そのうちどの程度を今回の対策に盛り込むのか検討を進める。

消費増税延期の大きな要因となった消費低迷を打開するため「喚起策の検討が必要」との指摘が政府部内にあり、1000億円規模のプレミアム商品券発行の拡充や、低所得者給付金の支給なども検討される見通し。

経済対策の規模を大型化させる場合には「公共工事をどの程度、積み上げることが可能か、その点で規模が左右される」と政府関係者の1人は述べる。

公共工事の対象として、経済効果の高いインバウンド投資が有力との指摘が複数の政府関係者から出ており、外国大型客船用岸壁整備や受け入れターミナルの建設、熊本地震を踏まえて防災対策などが、主なメニューとして取り上げられそうだ。

<財源で矛盾も、建設国債発行や外為特会>

一方、経済対策の中核となる16年度第2次補正予算の財源問題は、今から難航が予想されている。15年度決算の純剰余金は2544億円にとどまり、10兆円規模の経済対策には大型の財源候補が必要になるためだ。

候補の一つに挙がっている「資産売却」は、13年度の実績が1297億円。公務員宿舎跡地などを中心に「1年間ではこの程度しか売却契約が成立しない状況で、数兆円規模の経済対策の財源として当てにされても困る」(財務省関係者)という状況だ。

そこで注目されているのが、マイナス金利による国債費の削減分だ。16年度に見込まれる国債費減額分はすでに7000億円が熊本地震の対策費と計上されたが、まだ1.8兆円程度は使える余地があるとの民間試算がある。

また、リニア新幹線などの財源として、与党内に要望の多い財政投融資活用については「赤字国債と異なり、返済される資金で基礎的財政収支(PB)に影響しない。財源としては悪くない」(政府関係者)との声が上がっており、「現在活用を検討中」(国土交通省)という。

<異論が多い外為特会と建設国債の活用>

さらに外国為替資金特別会計の活用も、政府内では候補に浮上している。16年6月末の外貨準備高は1兆2539億ドル。この一部を取り崩して財源に充てることは可能との声が、政府関係者の一部から出ている。

しかし、財務省は「為替介入が必要なときに備えており、安易な取り崩しはできない」として活用には消極的だ。

そのうえ「取り崩し時にドルを売ることになり、円高要因になる点も議論を呼ぶだろう」と、ある政府高官は述べている。

こうした情勢の下で、与党内には、建設国債の発行容認論は広がっている。消費増税延期時に安倍晋三首相が赤字国債の発行で賄わないと言ったのは「社会保障費」のことであり、矛盾しないからだ。

だが、財政の専門家からは、建設国債増発はPB赤字悪化要因となり、2020年度の黒字化目標と両立できないという指摘が出ている。

財源問題が解決しない場合、8月中の対策取りまとめが大幅にずれ込む事態も想定される。

(中川泉 編集:田巻一彦)

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