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焦点:日銀は英EU離脱の影響警戒、臨時会合には慎重姿勢

2016年06月29日(水)19時01分

 6月29日、英国のEU離脱決定を受け、日銀は短期・長期の両面から日本経済への影響について分析を急いでいる。日銀本店、16日撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)

[東京 29日 ロイター] - 英国の欧州連合(EU)離脱決定を受け、日銀は短期・長期の両面から日本経済への影響について分析を急いでいる。世界経済の下振れや急激な円高・株安で景気が腰折れし、デフレ脱却が頓挫するリスクが高まったと判断すれば、追加の金融緩和を辞さない姿勢だ。

ただ、現時点ではリーマン・ショック時とは異なり国内外金融システムに本格的な緊張は生じておらず、臨時の金融政策決定会合の開催には慎重な声が多い。

<マインド下振れ懸念>

日銀は、英国民投票後の不安定化した金融市場の動向を注視し、政府や他の主要中銀と緊密に連絡を取り合っている。

ショックが発生した場合、真っ先に懸念されるのは外貨を含めた金融機関の資金繰りだが、邦銀は6月末越えの資金をすでに確保。日銀では資金繰りに「問題が生じているということは全くない」(黒田東彦総裁)と認識している。

ただ、不透明な状況が続く中で、期日を迎えた資金の借り換え需要など金融取引に支障が生じないよう、ドルを中心とした外貨の流動性供給に万全を期す構えだ。

警戒されるのは、急激な市場変動や世界経済の下振れを通じ、中長期的に日本経済へ悪影響が及ぶ可能性だ。特に英国のEU離脱決定後の円高・株安の進行は、企業・家計のマインド面を含めて経済・物価の新たな下押し要因になる可能性が大きい。

次回7月28、29日に開く定例の金融政策決定会合では、追加緩和の必要性がテーマになるのは避けられない情勢といえる。

<注目の円高による物価下押し>

次回会合では、向こう3年間の経済・物価見通しを示す「展望リポート」を公表する。前回4月の展望リポート公表時に1バレル35ドル程度だったドバイ産原油価格が、直近44ドルまで上昇。物価の上方修正要因となっていたが、同時期に外為市場では1ドル110円から102円へと急激に円高が進み、原油上昇を円高がほぼ相殺したとの声が、日銀内では出ている。

直近の変動要因として、日銀が注目している英離脱による各方面への影響では、1)

欧州地政学リスクの顕在化による世界経済の成長率の下方バイアスの程度、2)円高・株安の強まりによる企業収益や企業・家計の心理面への波及程度──などが挙がっている。

今年1月時点で、日銀は10%の急激な円安が短期的に0.3ポイント物価を押し上げ、実体経済の改善を通じて中期的にも物価を押し上げるとの試算を公表した。

この試算をそのまま前提とすれば、年初来15%と急激に進んだ円高は、物価を短期的に0.45%ポイント押し下げる計算になる。その通りの力が働けば、物価見通しに大きな変化をもたらすことになりかねない。

日銀内でも、円高進行の物価動向に与える影響について、精緻なシミュレーションを行っているもようだ。

<織り込まれた追加緩和>

もっとも、英国とEUの離脱交渉の先行きや、欧州・世界経済、金融市場の動向などを見定めるのは困難で、日銀は7月に国際通貨基金(IMF)が公表する最新の世界経済見通しや、米連邦公開市場委員会(FOMC)など見極めたい意向。

金融市場では翌日物金利スワップ(OIS)金利がマイナス0.3%まで低下しており「日銀のマイナス金利引き下げによる追加緩和が、織り込まれてしまった」(国内大手銀関係者)との見方もある。

<円高の影響、見極め必要の声>

政府・与党内からは、行き過ぎた円高には介入で対応すべきとの声が相次いで出ている。

しかし、英国民投票後に外為市場で進行しているのは、リスク回避によるポンド売り、ユーロ売りとドル買い、円買いの動きだ。もし、ドル買い/円売り介入を実施するとドル高基調を強め、ポンド/ドルでのポンド安に拍車をかけ、不均衡を拡大させかねない側面もある。

政府部内にはこうした点を注視すべきだとの声もある。また、英国民投票後の市場の急激な変動が実体経済に影響するには1─2カ月のタイムラグがあり、それを見極めるべきとの声も日銀内にはある。

このため日銀内には、臨時会合開催による追加緩和に距離を置く声が多いもようだ。ただ、想定を超えて円高・株安が急速に進行したり、海外金融機関に不測の事態が発生するなど金融システムが動揺する事態となれば、即座に対応する構えを維持している。

(竹本能文、伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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