ニュース速報

ビジネス

焦点:中国原発輸出、問われる「メード・イン・チャイナ」の信頼性

2015年03月11日(水)14時53分

 3月11日、原発輸出大国を目指す中国が、「信頼性」という大きな課題に直面している。求められているのは、まず国内で独自の原子炉を建設し、安全に運転できると証明することだ。写真は、中国の建設中の原子炉、2013年撮影(2015年 ロイター/Bobby Yip)

[香港/北京 10日 ロイター] - 原発輸出大国を目指す中国が、「信頼性」という大きな課題に直面している。求められているのは、まず国内で独自の原子炉を建設し、安全に運転できると証明することだ。

30年に及ぶ経済発展の中で獲得した外国の技術に支えられ、中国では世界最多となる原子炉が建設され、独自開発した原子炉の輸出計画も進んでいる。

李克強首相は5日に開幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、主要な原発プロジェクトを含め、幅広い先進業界で世界シェアを高める目標を掲げた。製造業の発展に向けた「中国製造(メード・イン・チャイナ)」計画だ。

先月には独自モデルの原子炉「華龍一号」をアルゼンチンに輸出することで基本合意。しかし、国営メディアが同モデルの「初航海」と表現したにもかかわらず、中国国内ではまだ華龍一号は1基も建設されていない。世界市場に原子炉を出荷できるのか、中国の輸出能力に懐疑的な見方が強まっている。

中国の国家核電技術公司(SNPTC)でシニアエキスパートを務めるシュー・リェンイー氏は「われわれの致命的な弱点は、管理基準があまり高くないことだ。国際基準とは大きな差がある」と話す。

米ウエスチングハウス(WH)の技術を取り入れるために設立された国家核電は、最終的に世界市場をターゲットとする別の原子炉を開発しようとしている。

中国は20年以上にわたり国内で原子炉を運転しているものの、いずれも海外で設計されたもので、独自技術の信頼性を輸出先に示す必要がある。鉱業といったその他の分野では業界基準や安全性に好ましくない印象があるため、なおさらこうした信頼性が必要だ。

アモイ大学エネルギー学院の李寧院長によると、福建省における中国初の華龍一号プロジェクトは、今年着工し建設が順調に進んでも2020年までに完了しない可能性があるという。

<「最高の安全性基準」>

中国は、2011年の東日本大震災に伴う原発事故を受けて1年に及ぶ安全性見直しを行った後、新規原子力プロジェクトの承認ペースを遅らせている。華龍一号や、将来の輸出を視野に入れた別の国産モデルである「CAP1400」といった「第3世代」原子炉を利用し、「最高の安全性基準」にこだわると表明している。

ウエスチングハウスから移転される技術をベースとするため、CAP1400のローンチは浙江省で行われているウエスチングハウスの第3世代原子炉試験の動向に左右されるが、この試験は技術的な問題のため3年遅れとなっている。

一方、ここへきて原発の新設に乗り出す動きも見せている。国営新華社は10日、遼寧省の紅沿河原発で、1ギガワットクラスの原子炉2基を増設することが認められたと報道。福島の原発事故後に原発の新設が認められたのは中国では初めてで、独自開発した第3世代原子炉「ACPR1000」を採用するという。

知的財産と金融資源を結集し国を挙げて世界市場に打って出るため、中国政府は国内の合併も促している。

先月には国家核電と国有電力会社である中国電力投資の合併計画が明らかになった。専門家の推計では、合併後の総資産額は6000億元(960億ドル)に達する可能性もある。

こうした戦略は高速鉄道分野で採られたものと似ている。外国の技術を取り込み、中国の鉄道メーカーは今では世界市場で存在感を増している。

中国は2007年にウエスチングハウスとの間で技術移転契約をまとめた。それ以降、技術の吸収や現地化に努め、CAP1400を開発。同モデルと華龍一号については全ての知的財産権を保有しているとしている。

東芝<6502.T>傘下となっているウエスチングハウスの北京オフィスにコメントを求めたが、今のところ回答を得られていない。

技術をめぐる権利が問題となることはなさそうだが、中国政府が国内企業の海外進出を支援するとしている中で、不当な補助などが与えられれば、海外ライバル企業の反発を招きそうだ。

中国の原子力戦略について国家発展改革委員会にファクスでコメントを求めたが、回答はなかった。

<足りない運転実績>

国家核電のチーフエンジニア、王中堂氏によると、アルゼンチンのほか、トルコや南アフリカとの間でも原子力技術輸出の話が進んでいるという。

しかし、華龍一号のアルゼンチン向け輸出を主導する中国核工業集団公司のある幹部は、同モデルを国内で本格運転するなど、原子力大国となる前にやるべきことが沢山あると話す。

中国では22基の原子炉が運転中で、さらに26基が建設中だ。国内の原子力発電能力を昨年末の20.3ギガワットから、2020年までに58ギガワットに増やす目標を掲げており、費用は1000億ドルに及ぶとみられている。ただ、これでも20年までに必要な電力の3%を賄えるに過ぎない。

業界団体である世界原子力協会の中国代表、フランソワ・モリン氏は、中国は運転実績を示す必要があると指摘。「中国以外から寄せられる信頼の問題となっている」と述べた。

(Charlie Zhu記者、David Stanway記者 翻訳:川上健一 編集:加藤京子) 

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB利下げ、年内3回の公算大 堅調な成長で=ギリ

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中