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焦点:米中摩擦アジア向け輸出に波及、政策対応後手に   

2019年07月18日(木)16時52分

[東京 18日 ロイター] - 6月貿易統計では、対中だけでなく、中国との結びつきが強まっているアジア向けも含めて輸出の落ち込みが目立ち、米中貿易戦争の長期化が日本経済の重しになっている構図が浮き彫りになった。ただ、リーマン・ショック直後の落ち込みと比べると、減速テンポが緩やかで、政府が直ちに追加経済対策の検討に入る情勢ではなく、一部の政府関係者からは、政策対応が後手に回るリスクを指摘する声も出ている。

<中国で設備投資関連需要が冷え込み>

6月貿易統計で目立ったのは、輸出の不振。全体は前年比6.7%の落ち込みとなり、輸出額の2割を占める中国向けは同10.1%減。中国依存度の高い韓国向けは同14.8%減、ASEAN向けが同6.7%減、同じく中国経済減速の影響を受けている欧州向けも同6.7%減と落ち込んだ。

米中貿易摩擦の長期化で、中国の輸出産業が打撃を受け、そのあおりで中国との貿易比率の高い国・地域の影響が顕在化していると民間エコノミストは分析している。

SMBC日興証券・シニアエコノミストの宮前耕也氏は「米中貿易戦争に伴って、中国国内における設備投資抑制やIT部門の調整が進み、その動きを反映した結果になっていると思う」と分析する。

対中国輸出を品目別にみると、輸出額全体の2割を占める一般機械が同17.8%減と大幅に減少し、中国国内で設備投資の勢いが失速し、設備投資関連財の需要が落ち込んでいることを示している。そのうち、半導体製造装置は同27.1%減となっている。

また、対中向け鉄鋼・非鉄金属は、それぞれ同17.7%減、同30.1%減と急ブレーキがかかった。

この分野での大幅な需要減は、7月ロイター短観でも如実に示され、鉄鋼業の景況感はリーマン・ショック以来の低水準に低下しており、今回の貿易統計の結果と整合的といえる。

<減速テンポは緩やか> 

だが、今年上半期の輸出全体のトレンドをみると、同4.7%減と減少しているものの、リーマン・ショック後のように前年比20─30%という「崖」のような急落には至っていない。

数量ベースでみる実質輸出は、4─6月期に前期比0.1%増と1─3月期の減少から増加に転じた。

政府関係者の1人は「景気がじわじわと悪くなっているのかもしれない」と述べるとともに「知らぬ間に経済が縮小してしまうような状態が一番怖い」と「ゆでガエル」的に日本経済が景気後退に陥るリスクに対し、警鐘を鳴らす。

実際、18日の日経平均<.N225>は前日比422円94銭の大幅下落となり、「市場は、10月に消費税を上げるという政府の景況感に『ノー』を突きつけている」(国内証券関係者)との声も出てきた。

ただ、政府の追加経済対策に対する動きは、今のところ、「緩慢」と表現できる対応にとどまっている。

政府は6月に閣議決定したいわゆる「骨太方針」で、海外経済のリスクが顕在化すれば、ちゅうちょなくマクロ経済対策を実施する方針を示した。

しかし、統計悪化が明確になり、景気の失速が表面化しないと「政府としても、対策を打つことができない。ジワジワと景況感が悪化した場合、そのタイミングを逸してしまうリスクがある」と、先の政府関係者は述べ、追加対策策定の具体的な時期の明示を避けた。

外資系関係者の1人は、18日の株価急落の背景に、そうした政府の鈍い対応があると指摘する。「欧米系ファンドの一部は、直ちに政府・日銀が動けないことを見透かして、日本株を売ってきた」と説明する。

<年後半回復シナリオ、後ずれの公算>

6月の輸入は全体で同5.2%減だが、商品に詳しいある市場関係者は、非鉄金属が同20.1%減と大幅に落ち込んだことに注目する。その関係者は、製造業の生産活動との関連性が高い銅の輸入が大幅に落ち込んでいる可能性があり、この先の鉱工業生産は楽観できないと指摘する。

ニッセイ基礎研究所・主席研究員の斎藤太郎氏の試算によれば、今年4-6月期の国内総生産(GDP)における外需寄与度は、前期比マイナス0.5%と2四半期ぶりのマイナスとなる。

農林中金総合研究所・主席研究員の南武志氏は「政府・日銀ともに年後半の世界経済回復シナリオを採用しているが、回復の時期が後ズレする可能性が高まっているように思われる」と述べている。

(中川泉 編集:田巻一彦)

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