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アングル:歴史問題に根ざす日韓「ハイテク輸出」対立の行方

2019年07月14日(日)10時05分

Makiko Yamazaki Heekyong Yang Ju-min Park

[東京/ソウル 8日 ロイター] - 日本政府が発動したハイテク材料の輸出審査の強化は、元徴用工問題をめぐって長年続く韓国との争いをさらに激化させた。

今回の輸出管理強化で明らかになったのは、世界第3位の経済大国・日本が、依然としてグローバルなサプライチェーンの重要な部分を握っているということだ。日本の半導体産業はすでに韓国に追い越されたものの、その部品や素材の分野では主要プレイヤーであり続けている。

今回日本がターゲットにした材料はどういうものか、どの企業が影響を受けうるのか、さらに今後の追加規制の可能性、問題の背景にある日韓の対立をまとめた。

●何が規制されるのか

対象はフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素(エッチングガス)。フッ化ポリイミドはスマホのディスプレーに使われる。レジストは半導体ウエハーに回路パターンを転写するために塗布される薄い膜。フッ化水素は同じく半導体の製造工程で、不要な部分を溶かして除去するために使われる。

●日本の市場シェア

日本のメディアによると、日本はフッ化ポリイミド生産で世界の約90%、エッチングガスで約70%を占める。一方、政府の資料によると、レジストのシェアは約90%。韓国の半導体メーカーが、代わりの供給元を探そうと思っても難しいのが実情だ。

韓国が今年1─5月の間に日本から輸入したこの3つの材料は、金額に直すと1億4400万ドル(約156億円)に上る。韓国政府のデータによると、韓国が輸入したフッ化ポリイミドの94%、エッチングガスの44%、レジストの92%を占める。

メモリで高いシェアを握る韓国の大手半導体メーカーの関係者は、国内各社は在庫を備蓄する努力をしなければならないと話す。

●影響を受ける企業は

サムスン電子<005930.KS>、SKハイニックス<000660.KS>、LGディスプレー<034220.KS>はいずれも影響を受けそうだ。

複数のアナリストによると、日本側のサプライヤーには、JSR<4185.T>、東京応化工業<4186.T>、信越化学工業<4063.T>、ステラケミファ<4109.T>、ほかには昭和電工<4004.T>、関東電化工業<4047.T>が含まれる。

●在庫はどのくらい

サムスン電子とSKハイニックスは、こうした材料のほとんどを日本に頼っているが、フッ化水素の一部は中国から輸入している。複数の専門家は、韓国企業は一部材料については最大4カ月分の在庫を確保しているという。

野村証券のアナリスト、岡嵜茂樹氏は、例えばレジストは経年劣化するため、在庫を積み増すのは難しいと語る。エッチングガスも大量の備蓄が困難だという。

●輸出規制の仕組み

日本は3品目の韓国向け輸出について、手続きを簡略化していた優遇措置を取りやめ、契約ごとに個別許可を義務付ける。日本の政府高官によると、審査には約90日間を要する。

●韓国ができることは

韓国の半導体業界団体よると、韓国メーカーは中国や台湾など、日本のルールが及ばない調達先を探している。

●日本の今後の出方

日本政府によると、追加の輸出規制を検討しており、工作機械など、軍事転用の恐れがある品目にも適用する可能性がある。

特に、輸出手続きの優遇措置がある「ホワイト国」のリストから韓国を外す見通しで、そうなると日本から韓国への輸出は、時間のかかる申請手続きが必要になる。

日本が指定しているホワイト国はドイツ、英国、米国など27カ国。韓国は2004年に追加されたが、初のリスト除外国になる可能性がある。

●今回の対立の背景は

韓国最高裁は2018年10月、植民地時代の元徴用工4人に対して、新日鉄住金<5401.T>が賠償すべきとの判断を示した。日本政府はこれに対する韓国政府の対応が不足しているとして批判している。

日本は、1965年の日韓請求権協定によって徴用工問題は解決済みとの立場で、判決は受け入れられないと反発している。

●WTO

韓国は日本の措置について、世界貿易機関(WTO)のルールに違反すると非難。WTOへの提訴など必要な対抗策を講じると表明している。

日本はWTOのルール違反には当たらないとの見解を示している。

(翻訳:宗えりか、編集:久保信博)

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