コラム

鳩山政権「亀井外し」が始まった

2009年10月01日(木)18時05分

 総理大臣に就任して2週間が経ち、鳩山由紀夫は重要な教訓を学んだはずだ。重要な政策課題は自分で提起しなければ、ほかの誰かがやってしまうということだ。

 鳩山政権で重要施策を打ち出したのは、亀井静香郵政改革・金融担当大臣だった。鳩山政権の課題は山ほどあるが、亀井が提唱する零細・中小企業への返済猶予(モラトリアム)が、優先課題のトップに浮上したのは明らかだ。

 9月28日、与党の党首級閣僚が出席した基本政策閣僚委員会の初会合の後、亀井は鳩山が自分と「同じ意見」だったと述べた。さらに、この計画は私案ではなく、連立政権発足前の三党合意に基づいていると主張した。

 鳩山は、モラトリアム計画が三党合意に含まれていたことは否定したが、中小企業の資金繰り対策に取り組むことは認めた。また、元本と利子の支払いを猶予する亀井案に対して、元本の支払いのみを猶予する法案を検討すると示唆した(実際、鳩山は衆院選前の地方遊説でモラトリアム制度を支持する発言をしており、その様子を映したユーチューブの投稿に池田信夫がリンクを張っている。時事通信も鳩山の過去の発言を報じた)。

■首相自身はどっちつかず

 ただし、鳩山は同時に「しっかりとした議論」が必要だとも語っている。つまり問題は、鳩山が亀井に同調してモラトリアム計画を推進していることではない。鳩山が指導力を発揮していないことだ。彼はトラブルから距離を置こうとしているように見える。

 これが、「平等な閣僚のなかの議長」的な位置づけにある首相の姿なのだろう。閣僚に命令を下す代わりに、鳩山は彼らに政策をつくらせようとしている。

 現在、モラトリアム法案の行方を担っているのは大塚耕平・金融副大臣。金融機関による貸し渋り・貸しはがし対策の検討チームの責任者として、10月9日までに制度の原案をまとめる。日本銀行出身の大塚は中小企業が借金返済の条件変更をしやすくする仕組みをつくりたいとしながらも、銀行に返済猶予を一律に義務付けることには否定的な発言をした

 亀井は大塚の姿勢を歓迎しておらず、副大臣にそんな発言をする「権限はない」と攻撃的な態度でけん制した

 亀井は今後も間違いなく発言を続けるだろうが、大塚が率いるチームが法案を検討している今、亀井一人に関心が集まることはないだろう。私が予想したように、政府は亀井に対する反撃を開始したようだ。
 
 副大臣に権限を与えることがなぜ鳩山政権にとって重要なのか、そして大塚と旧大蔵省出身の古川元久が政権の中枢である内閣府副大臣を務めることがなぜ重要なのか今後明らかになってくるだろう。実務レベルに経済や金融の専門家がいることは、政権を強化するうえで計り知れない力になる。

 亀井は今後も戦い続けるだろうし、鳩山はいずれ明確に意思表示をする必要に迫られるだろう。だが鳩山政権はひとまず、重要な問題の主導権を亀井から取り戻す第一歩を踏み出したようだ。

[日本時間2009年09月30日(水)09時19分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での

ビジネス

パラマウント、ワーナーに敵対的買収提案 1株当たり

ワールド

FRB議長人事、大統領には良い選択肢が複数ある=米
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story