コラム

タリバンを野蛮と切り捨てる危うさ

2021年08月24日(火)14時24分
タリバン

アフガニスタンのザーブル州カラートを行進するタリバンの戦闘員(8月19日) REUTERS

<女性抑圧や手を切り落とす刑罰などおぞましい因習をもつタリバンを、人々はなぜアメリカより支持するのか>

アメリカ軍やその他のNATO軍が撤退作戦を進める中、ターリバーンの攻勢によってアフガニスタン政府軍は崩壊。8月15日には首都カブールが陥落し、アフガニスタンは事実上、ターリバーンが政権を握る国家となった。

この「政権交代」に伴い、旧政府軍やアメリカ軍に協力した者たちに対する過酷な報復が危惧されている。首都陥落前、カブール空港は亡命を求める市民でごった返した。さらに心配されているのは、イスラーム法を厳格適用しようとするターリバーンの復活によって、基本的人権が抑圧されてしまうことだ。特に心配されているのが女性の人権だ。

ターリバーンによる女性の権利の侵害

かつてのターリバーン政権では、女性の就労・教育をはじめとする様々な権利が抑圧されていた。現ターリバーンのスポークスマンは、女性の教育は保証されるとしているが、それは初等教育程度の限定的なものになるだろうともいわれている。ターリバーン支配地域では、女性の就労制限なども行われているという。いくら「伝統」や「信仰」を持ち出したとしても、こうした人権侵害は是認できるものではない。

一方、ターリバーンの問題を、イスラーム全般の問題と置き換えてもならない。イスラーム信仰と女性の権利の両立を目指すムスリムはごまんといる。たとえばパキスタンのターリバーンと敵対し、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイは、今なおイスラーム教スンニ派の信徒であり、国際的なムスリムの支持も集めている。

旧ターリバーン政権の崩壊後、アフガニスタンでは高等教育を受ける女性が増加し、社会進出もすすんでいた。多くのフェミニズム・女性団体、そして自由を享受してきたアフガニスタンの女性当事者は、この20年間の試みが逆戻りすることを恐れている。

支持されるターリバーン

ここで問題なのは、ターリバーンは必ずしも暴力で人民を締め付ける恐怖政治を敷く勢力とは呼べないということだ。もしそうであれば、ターリバーンは数と装備で勝る政府軍をこれほどまでに早く駆逐することはできなかっただろう。もちろん原理主義的な姿勢を拒否する人はいて、現在アフガニスタンではそうした人々の抵抗が広がっているというが、それでも多くのアフガニスタン人はターリバーンを支持したのだ。

腐敗に満ちたアフガニスタン政府が人心を掌握できず、外国軍の支援でかろうじて体制を維持しているにすぎなかったのに対し、ターリバーンはいわば大地に根ざしていた。地方の民衆による一定の支持があったからこそ、ターリバーンはパルチザンとして拠点を確保し、物量に勝る政府軍に対して戦闘を継続できたのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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