コラム

ヴォーグ誌、独裁者夫人を讃美

2011年03月01日(火)18時20分

シリアのファーストレディー、マサド・アサド

場違いな華 シリアのファーストレディー、アスマ・アサド
Khaled al-Hariri-Reuters


 今日発売の高級ファッション誌ヴォーグの特集は、シリアのアサド一族だ。中東が過去30年で最大の革命の波に襲われているこの時期に、シリアの独裁者へのお追従記事を出すのは非常識だと、ヴォーグの編集者が気づかなかったらしい。

 記事には、中東諸国に広がる反政府デモには、シリア国内のものも含めて一言も触れていない。代わりにクローズアップされているのは、シリアの大統領夫人アスマ・アサド。「茶色の瞳にウェーブのかかった髪と長い首が活気ある優雅さを醸し出し」、「最も新鮮で最も引き付けられるファーストレディー」とある。

 中東の他のファーストレディーたち、とりわけチュニジアのベンアリ前大統領夫人のレイラ・トラベルジィなどは、国外逃亡の際に金塊を持ち逃げしたと非難されるなど国民の怨嗟の的になっている。アスマのほうも、自分の魅力をひけらかしている場合ではないだろう。

 おそらくアサド家は、各国の反政府デモがここまで激しくなる前にインタビューを承諾したのだろう。墓穴を掘るようなことまで言っている。あるエピソードで、アスマは自ら設立したNGOマサールが運営する青少年教育センターの一つを訪ね、楽器の練習をしたりパソコンでチェスをしたりしていた子供たちにいきなり嘘をつく。


 彼女は思いがけないことを言い出した。「ここのセンターを閉鎖して、別の場所に作ったほうがいいと言われているの」と、アスマは言った。子供たちはびっくりする。涙をこらえる子供もいる。怒り出す子も。一人の男の子は健気に言った。「別にいいさ。もうやり方はわかったから、僕たちが小さい子に教えるよ」

 するとファーストレディーは言う。「嘘よ、閉鎖するなんて。どのくらいマサールのことを想ってくれているか試したの」。


 恩着せがましいを通り越して残酷な仕打ちだ。

──デービッド・ケナー
[米国東部時間2011年02月25日(金)12時10分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 1/3/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story