コラム

マリフアナ全米解禁論の詭弁

2010年10月14日(木)16時37分

 ホワイトハウス麻薬管理政策局のリチャード・ギル・カーリカウスキ局長は、シンクタンクのランド研究所が発表したマリフアナ(乾燥大麻)についての報告書を絶賛している。カリフォルニア州では11月2日にマリフアナ使用の是非を問う住民投票が行われるが、もし投票の結果マリフアナが合法化されても、メキシコの麻薬カルテルの商売に大した打撃を与えることにはならないと結論づけているからだ。


「カリフォルニアでマリフアナを合法化すればメキシコの麻薬密売組織を弱らせることもできるという主張のためにこれまで数百万ドルのお金が使われてきた。だがこの報告書を見れば、合法化しても麻薬密売組織の儲けや暴力を減らす役には立たないことが明らかだ」と、カーリカウスキは言う。


 カリフォルニアでマリフアナが合法化されても、メキシコの密売組織が対米輸出で得る利益は2〜4%しか減らないだろうと、ランドは試算する。だが、そこには大きな但し書きが付く。

■米国産大麻で市場をシェアせよ


 ただし、もしカリフォルニアで栽培されたマリフアナがアメリカの他の州に密輸されれば、密売組織は何倍もの打撃を受ける。合法化の後、低コストで品質の高いカリフォルニア産のマリフアナがアメリカ市場で支配的なシェアを握るようになれば、メキシコからの輸出は65〜85%近く減る可能性があるという。


 こんな但し書きが付くなら、この報告書はマリフアナの合法化の反対ではなく、全米でマリフアナを解禁させるメリットを示していることになるのではないか。

 カーリカウスキに公平を期すために言えば、そもそもマリフアナ合法化の是非を、メキシコの麻薬カルテルへの影響を根拠に論じるのはおかしいと思う。犯罪者が不当な利益を得ているからマリフアナを解禁すべきだという理屈は詭弁でしかない。より重要なのは、マリフアナが社会にもたらす悪影響より、マリフアナを禁じていることから生じているコストのほうが大きいと言えるかどうかだ。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年10月13日(水)11時33分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 14/10/2010. ©2010 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

ウクライナ提案のクリスマス停戦、和平合意成立次第=

ビジネス

EUの炭素国境調整措置、自動車部品や冷蔵庫などに拡

ビジネス

EU、自動車業界の圧力でエンジン車禁止を緩和へ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story