コラム

ネット過激派の国スウェーデン

2010年08月03日(火)17時22分

 スウェーデンのウェブホスティング会社PRQは、『スター・ウォーズ』に出てくる悪党の巣窟モス・アイズレーのインターネット版か、言論の自由の闘士をかくまう地下シェルターのどちらかだ。PRQは、事実上誰にでもサーバーを貸し出し、サイトの管理・運用を請け負うからだ。相手がチェチェンの独立派武装勢力だろうと、小児性愛者の支援組織だろうと、アフガニスタン戦争に関する機密暴露で注目を集めた内部告発サイト、ウィキリークスだろうとお構いなし。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)専門のオンライン誌マシャブルが先週書いたように、PRQは徹底した秘密主義を貫くスイスの銀行にそっくりだ。

 PRQの信条はスイスの銀行と同じく、プライバシーと秘密を「無限に」厳守すること。同社は04年、情報公開社会に道を拓くインターネットを信奉する少数の活動家たちによって設立され、「どこからどう見ても遺法」な商売のぎりぎり一歩手前で踏みとどまっている。メディアにたたかれても、弁護士に訴えられても、ボイコットされても、市民が激怒しても、戦う覚悟はできているという。

■海賊を名乗る政党が躍進

 ところで、PRQを経営しているのはゴットフリード・スバルソルムとフレデリック・ネイジ。04年に、当時大きな問題となったファイル交換サイト、パイレート・ベイを始めた2人だ。このサービスは、単に映画や音楽といった著作物へのリンクを提供するだけで、著作物そのものをばら撒くものではなかったが、スウェーデンで訴えられた2人は09年、著作権侵害のほう助で有罪になり禁固1年の実刑判決を受けた。

 ところがスウェーデンではこの判決に対する反発を追い風に、ネット上のファイル交換の自由とプライバシーの保護を訴える政党パイレート・パーティーの人気が急上昇。09年6月の欧州議会選で1議席を獲得した。既にパイレート・ベイにサーバーを貸している同党は、ウィキリークスにもPQRに代わってサービスを提供しようと申し出ている。

 これだけ様々な選択肢があるというのに、アルカイダが最近創刊したテロリスト勧誘誌、インスパイアに、いまだ紙媒体しかないのはなぜだろう。

──ブライアン・ファン
[米国東部時間2010年08月02日(月)12時13分更新]

Reprinted with permission from"FP Passport", 3/8/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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