コラム

アフガン大統領選、真の勝者はアブドラだ

2009年11月05日(木)16時31分

pass021109.jpg

時の人 カルザイ大統領の選挙不正のおかげでアブドラは国際的な有名人になった(10月26日)
Ahmad Masood-Reuters


 中央アジアや中東の情勢に詳しいニュースサイト「ユーラシアネット」で、カブール在住のインド人ジャーナリスト、アウノヒタ・モジュンダがアフガニスタンの大統領選を総括している。彼女に言わせれば、真の勝者は決選投票を辞退したアブドラ・アブドラだ。


 8月20日に行われたアフガニスタン大統領選でタジク人のアブドラが勝利を収める可能性は、第一回投票にせよ決選投票にせよ、ゼロに等しかった。彼には(現職のハミド・カルザイの)反対勢力をまとめ上げる力がなかったからだ。

 2006年までカルザイ政権の外相を務めるなど過去の政治的役割を考えると、アブドラには支持を集めるための一貫した強力な政治的基盤がない。タジク人の反体制勢力をまとめて支持を取り付けることさえできなかった。鍵を握る北部同盟の元司令官(でタジク人の)カセム・ファヒムは、カルザイを支持した。

 にもかかわらず、アブドラは時の人として注目を集めた。巧妙な選挙戦略のおかげで人気が急上昇したと、アフガニスタンの政策研究センターのハルーン・ミール所長は指摘する。「外相時代には一般国民の感覚からずれていたが、今では国家の指導者として台頭している」

 8月20日の第一回投票でカルザイ陣営が票の水増しを行った疑惑発覚した。だが皮肉なことに、そのおかげでアブドラの評価は今、自由で公正な投票が行われた場合より高まっているようだ。


 これは選挙版の「ストライサンド効果」といえるかもしれない。ストライサンド効果とは、インターネット上で情報を検閲しようとして反発を招き、検閲をしなかった場合よりもずっと広く情報が知れ渡る現象のこと。票を水増ししたことでアフガニスタン政府は、たいして信頼されていなかった一介の政治家を国際社会の信頼を集める有名人に変えてしまった。
 
──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2009年11月04日(水)13時37分更新]


Reprinted with permission from FP Passport, 05/11/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、日本の核兵器への野心「徹底抑止」すべき=K

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story