コラム

「ティーパーティー」とは何者か

2010年09月28日(火)15時51分

 一時は人気のあった民主党が支持を失っているのは、日本ばかりではありません。アメリカも同じこと。今年11月にはアメリカの中間選挙(4年ごとの大統領選挙の中間の年に実施される連邦議会選挙なので、こう呼ばれる)があり、民主党の大幅退潮が予想されています。

 9月24日に発表されたCNNテレビの世論調査によれば、オバマ大統領の支持率は42%と過去最低。中間選挙での民主党の支持率は44%、共和党は53%と、民主党の苦戦ぶりが鮮明になっています。

 この調査で注目されるのは、保守系の草の根運動である「ティーパーティー」系の候補者を支持すると答えた人が5割にも上ったことです。

 ティーパーティーという言葉でアメリカ人が思い出すのは、「ボストン・ティーパーティー」。アメリカが植民地時代、イギリスが課した茶への重税に抗議する人たちが、ボストン湾に茶を投げ捨て、「ティーパーティー」(茶会)と称した事件です。ティーパーティーは、重税に反対して独立運動のきっかけになった重大な事件。アメリカ建国の理念を示す言葉でもあります。

 オバマ政権成立後、オバマ政権に反対する保守派の人たちが、「大きな政府」に反対する集会を開く際、集会を「ティーパーティー」と呼びました。この言葉が、多くのアメリカ人の心をつかみました。

 パーティーには政党という意味もあるのが、この運動のネーミングの妙です。最初はパーティーつまり集会を開いていただけなのに、いつしか政党化し、11月の中間選挙に向けて、自分たちの候補擁立に動き出したのです。

 民主党も共和党も、各地で候補者を決める予備選挙を実施しています。ここで、共和党の予備選挙にティーパーティー運動の活動家を立て、共和党の本命候補を次々に破っているのです。

 本誌日本版9月29日号は、「ティーパーティーの正体」という記事で、このグループの解明を試みています。

 この記事によると、運動の中心になっているのは、「社会の変化に敵意を抱く中流層で中年の白人男性」だとか。「ティーパーティーの特徴は、そのアナーキーな性格だ。彼らはあらゆる権威に敵意を示し、いつもけんか腰の言動を取り、自分たちが非難する政策に対して建設的な代替案を示すことはない」のだそうです。そもそも野党というのは、そういうものではないのか、という突っ込みを入れたくなるような分析ですが。

 でも、自分たちより社会階層が上のエリートに反感を持ち、自分たちより下の社会階層によって自分たちが脅かされていると危機感を抱く。これではまるで、現代版ファシズムの萌芽ではありませんか。

「デラウェア州の共和党上院議員候補に決まったクリスティン・オドネルは、進化論より天地創造のほうが証拠は多いと言う」のだそうです。

 もはやアメリカは、オバマ大統領を誕生させた頃の国とは大きく変わってしまいました。常に左右に大きく揺れる。これが、かの大国の実相なのだということを、改めて認識しておいた方がいいでしょう。ティーパーティーは、もはや茶会ではないのですから。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 5
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 8
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story