コラム

タリバン指導者オマルはどこに?

2010年08月25日(水)11時26分

 アメリカのオバマ大統領は、イラクから米軍を撤退させる一方、アフガニスタンには戦力を増強しています。イラク戦争は「間違った戦争」だが、アフガニスタンの安定は「テロとの戦い」のために重要だと考えているからです。

 しかし、アフガニスタンで米軍はタリバンの攻勢に手を焼いています。米軍の犠牲者は増えるばかり。新聞やテレビは、タリバンの勢力伸張を強調します。

 ところが、タリバンの組織の結束と規律が揺らいでいる、と指摘するのが、本誌日本版8月25日号の『タリバンを脅かす「消えた指導者ショー」』という記事です。

 何かをもじったのでしょうが、意味不明のタイトルです。要するに、タリバンの指導者が姿を消したままだという話です。

 タリバンの最高指導者といえば、ムハマド・オマル。オサマ・ビンラディンではないですから、お間違いなく。ビンラディンは、母国サウジアラビアを追われて、かつてソ連軍と戦った仲間たちがいるアフガニスタンに逃げ込み、タリバンの客人になった後、国際テロ組織「アルカイダ」を結成しました。

 ビンラディンがアメリカに対する同時多発テロを実行したとして、アメリカはビンラディンの身柄引き渡しをタリバンに要求。タリバンが拒否したため、ブッシュ政権のアメリカはタリバンを攻撃しました。

 タリバンを率いてきたのは、ほとんど映像も残されていない、謎の人物オマルです。

 アメリカの攻撃以降、ビンラディンもオマルも、姿を消しました。その後、ビンラディンは、時折り肉声のメッセージを発表して健在ぶりをアピールしていますが、オマルの消息はつかめていません。オマルが健在だという噂は流れるけれど、それを裏付ける確証がまったくないというのです。

 このため、「今や、オマルの名前で発せられる命令はほぼことごとく、疑いの目で見られる」のだそうです。

「1年半前、パキスタン領内のタリバン勢力に対して、パキスタン軍を攻撃するのをやめて、アフガニスタン駐留米軍を標的にするよう命じる文書が出回った。この文書はオマルの署名入りとされていたが、タリバン内には、パキスタン軍の情報機関である軍統合情報局(ISI)による捏造を疑う人も多い」とのこと。

 オマルの存在が不明なまま、オマルの副官が拘束され、タリバン勢力には「リーダーシップの真空状態」が発生しているというのです。

 タリバン復活のニュースばかりが伝えられる中で、こうした情報は貴重です。

 オマルは、そもそも生きているのか? ひょっとして、武田信玄の最期のような隠蔽が行なわれているのか。だとしたら、誰が指導者なのか。謎は深まります。こんな謎を提示してくれる貴重な記事が読めるのも、この雑誌の魅力です。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、ロシアのイラン擁護に懸念 対ロ制裁

ワールド

ロシア・インドネシア首脳が会談、戦略的パートナーシ

ワールド

IAEA、イラン発表のウラン濃縮施設はイスファハン

ワールド

カナダ、対米鉄鋼・アルミ関税引き上げも 30日内の
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story