コラム

ウクライナ戦争は欧米と日本の「反ロ親中」思想が招いた

2022年03月16日(水)18時00分

欧米のパンダハガー(親中派)が政治と経済の主導権を握り、ロシアはソ連の継承国として敵視し続けた REUTERS/Wu Hong/Pool

<ロシアが社会主義を捨てても邪険にされた一方で、中国の反人道主義を許したツケ>

ロシアがこのほど隣国ウクライナに侵攻したのは、欧米と日本が冷戦崩壊後に犯した戦略的ミスの結果だ。

その致命的な判断ミスは2つあった。

第1に、ロシアをソ連と同様、少なくともソ連の継承国家として敵視し続けた。第2次大戦後、世界は自由主義と社会主義の二大陣営に分かれ、互いをライバルだと認識した。

アメリカとその同盟国はソ連をリーダーとする社会主義圏と対峙して核兵器など軍事開発を競った。しかし、どちらかというと大戦争には発展せずにイデオロギー的論争を通じて相手を教化せんとした時代だったと、大方の現代史家は振り返る。

軍事面での強大化と思想的抑圧が社会の停滞をもたらし、社会主義計画経済の行き詰まりを改善できなかったために、ソ連は崩壊した。解体されたソ連邦の構成国家の一部を欧米はNATOに迎え入れて拡大したものの、最大の中核国家であるロシアを排除した。

ロシアからすれば、単に「鉄のカーテン」の外から蚊帳の外に追い出されただけでなく、社会主義思想を捨てても敵視されていると感じざるを得なかった。現にプーチン大統領はロシアもNATOに加盟する用意があると発言したが、民主主義陣営は冷笑に付すだけで歓迎しなかった。

敵視された以上、「ロシアを守れるのはロシア人自身と武器のみ」との方向に進むしかない。奪われた「領土」と「国民」を取り戻すのは当然だと思考するプーチンは2014年にクリミア半島を併合し、兄弟民族たるウクライナの「裏切り」を阻止すべく打って出たのが今回の侵攻だろう。

第2に、ロシアとは逆に中国に甘い政策はもっと致命的だった。

1991年以降、無血革命の形で平和裏に各共和国の独立を許したソ連とは対照的に、中国は民主化を求める市民と学生を武力で鎮圧し、反人道的異様さを世界に示した。多くの命が奪われたにもかかわらず、広大な市場に魅了された欧米諸国と日本は自由と人権という偽善者のマスクまで捨てた。

天安門事件後、ブッシュ米大統領は両手が人民の血で染まった鄧小平に制裁を科さない旨の書簡を送り、日本は天皇(現上皇)を訪中させ、形ばかりだった制裁ですら率先して解除した。欧米ではパンダハガー(親中派)が政治と経済の主導権を握りながら中国とのビジネスを推進して利益を貪ったし、日本は「日中友好」を宗教のように盲信し続けた。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

台湾ヤゲオ、日本政府から外為法上の承認を取得 芝浦

ワールド

北朝鮮金総書記が北京到着、娘「ジュエ」氏同行 中ロ

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=S&P・ナスダック1%超安

ビジネス

住友商や三井住友系など4社、米航空機リースを1兆円
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story