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イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

イタリアの昆虫粉についての実情

iStock- ARISA THEPBANCHORNCHAI
 国連は、世界の人口は2030年には約85億人、2050年にはおよそ100億人に達すると予測している。人口の増加に伴い、全人口が補えるだけのタンパク質の需給バランスが崩れる「タンパク質危機 」が懸念されている。
 今後予期される食糧不足問題とタンパク質危機を解消し、需給を満たすための食材として注目されたのが、栄養価の高い昆虫だ。

 欧州連合(EU)からの提案に基づく"新しい食品"として、2021年6月には既に、テネブリオ・モルジターというミズムシムシの幼虫を乾燥したものと2021年末からはトノサマバッタを認可し、2022年3月から部分的に脱脂された乾燥コオロギを粉末状にしたものを添加した小麦粉や冷凍、ペースト、粉末化されたミールワームの幼虫の販売については既に許可され、それらは販売されていた。

それに加え、食品成分としてヨーロッパ・イエコオロギ粉末を添加する小麦粉とそれに基づく製品の市場向け販売を2023年1月26日に認可した。

イタリアでの認可は2023年2月16日(水曜日)からで、G-Dayまたはクリケットの日という名前でスタートした。
そして、昆虫クリケット粉を使った食品が市場に出回るようになった。

伊・マルケ州のテレビのニュース番組「チェントロ マルケ」で放送、Tv Centro Marche公式YouTubeチャンネルより


| コオロギ粉の味はヘーゼルナッツの味に似ている

- トリノでは、コオロギ粉をベースとしたパスタを使ったピエモンテ料理が初登場した。
地元企業の主導で2007年に誕生したイタリアのクリケットファームという企業が、人間が口にする食品の市場でクリケットパウダーを販売する許可を要求した最初のイタリア企業である。
クリケットファーム社は、1日に100万匹のコオロギを加工し、そこから動物性食品用の小麦粉に精製した昆虫ベースのパスタを提供している。

クリケット ファームのCEOであるアルバーノ氏によると、味はヘーゼルナッツ似ているとのことだ。
トリノにある エンリコ・ムルドッコのベーカリーも同様に、後味がヘーゼルナッツだと言っている。


-ミラノではコオロギ粉でできた緑色バンズのハンバーガーが登場した。


このコオロギ粉でできたハンバーガーを食べた顧客100人とレストランオーナーによると、バンズ生地に含まれているコオロギ粉の割合は非常に少なく、わずか 1.6%を使用していて、顕著な風味はなく、わずかなナッツの香りがするもので、中心的な役割を果たしているのは、カネリーニ豆と蒸したジャガイモ (これらが一緒になってハンバーガーを構成する)風味であるという。
試食した顧客による感想では、昆虫粉についてのネガティブな印象や味の先入観は吹き飛び、想像していた味と全く違うものだったと印象も良く、概ね高評価を得ていた。

-ナポリでは、ピッツァメーカーのジーノ・ソルビッロは、伝統的ナポリピッツァを守るためという目的で、ナポリで、有名なピッツァ職人ソルビロ氏が、生地にコオロギ粉を練り込んだピッツァを試作実験した。
それを試食した顧客によると、「後味が苦い」「到底受け入れられない」という感想が大半で、ナポリ人にとって昆虫粉で作ったピザには大反対、伝統的ナポリピッツァを好むという結果が出た。


| 昆虫食品に対する4つの新しい規制

3月25日に、 農業省ランチェスコ・ロロブリジーダ大臣、保健省オラツィオ・スキラッチ大臣、経済開発 (企業およびメイド・イン・イタリー)省アドルフォ・ウルソ大臣の3つの省庁によって「昆虫食品に対する4つの新規則」に、共同で署名された新法令が誕生した。

「イタリアで昆虫食品に対する規制の動き」というニュースが世界中に駆け巡り、Twitter上では日本人ユーザーのつぶやきは、あたかもイタリア政府が昆虫食品を全面禁止にし、コオロギ粉を出禁にしたというよな解釈で、誤認し、間違った内容のツイートが拡散されている。
そのような誤解を与えるようなフェイクニュースに対し、「さすがイタリア」、「コオロギなんて喰ってられるか!」、「日本もイタリアに見習って昆虫粉を禁止するべきだ」、「これで安心してパスタが食べられる」などのコメントを見ると、完全に誤解をしているようだと感じる。

正確には、ピザやパスタなどの現在流通している典型的なイタリア製品への昆虫粉の使用を禁止すると述べているので、


制限や全面禁止ではない。

昆虫粉を添加した食品は今後、市場に流通し、一般スーパーマーケットでも販売される。


そもそもイタリアには1967年に施行された「パスタ法」なるものが存在する。
法律で乾燥パスタはデュラムセモリナ粉と水で作ったもの以外はパスタとは認められない。
その法令に順守した伝統的パスタの中に昆虫ミールを混合してはいけないということを再確認し、新たに4つの法令を追加し、法規制を引いたといのが、今回発表された現地イタリアからのニュースである。
 
タンパク質含有量と純度の点では従来の小麦粉よりもはるかに優れている最高級エコロジカル製品のコオロギ粉だが、1 kg/75€(約1万円)と高価で、スーパーマーケットで販売されているパスタよりコオロギ粉パスタは4倍の価格で発売されることが見込まれている。
世界の飢餓と地球の健康に貢献するためには、まずはお財布と要相談といったところであろうか。

| 新たに4つの法令とは

⭕️保健省からスキラッチ保健大臣の声明

【商品ラベルについて】

・製品の原産地
・消費に関連するアレルギーリスク
・昆虫ミールの分量

を商品ラベルに示して提供すること

【店舗に展示する陳列棚について】
従来の古典的パスタと差別化、離して陳列して提供しなければならない

【従来イタリア製品との区別】
イタリアを代表する伝統的な地中海食のピッツァやパスタなどへの昆虫粉の使用を禁止

従来古典的パスタとの差別化をしっかりすることや商品の成分表示ラベルには必要なすべての情報を示すなど、ラベル表示の順守について、そしてパスタ法で認められている古典的従来パスタとは異なる4つの種類の昆虫(コオロギ、トノサマバッタ、ミルワーム幼虫、イナゴ)をベースとする小麦粉を規定する4つの法令が提示された。

消費者がこの4つの種類の昆虫から好きなものを選べる、少なくとも自分は何の昆虫を食べているのかを知る権利があり、しっかりと自己で認識して購入するという選択肢を持たせた形で、それを法令により明確化したのだ。

法令を完全に順守できているかを監視するのは、イタリアの食品安全行政、保健省のNAS(Nuclei Antisofisticazione e Sanità) 保健・衛生措置の監視や衛生検査をする保健カラビニエーリ司令部NASが受け持ち監督する。

⭕️農業省から地域会議の農業政策委員会フェデリーコ・カナール氏の声明

「昆虫由来の粉の使用については、健康へのリスクの可能性だけでなく、明確にそれを説明する必要がある。無差別な昆虫粉の使用や食品偽造などが起こり得るリスクを回避する戦略として、昆虫ミールを含むすべての昆虫由来のものが少量でも存在する場合は、パッケージングとフードチェーンのあらゆる側面に明確な情報を表示する必要がある。」

と結論づけた。

⭕️文化省ジェンナーロ・サンジュリアーノ大臣と農業省ランチェスコ・ロロブリジーダ大臣からの発表

こういう新法令を加えた背景には、同日「イタリアの伝統的な食文化、古典的イタリア製食品とイタリア料理」をユネスコ無形文化遺産に申請書を提出したと発表したことがある。

*日本の「和食、日本人の伝統的な食文化」は、2013年12月4日にユネスコ無形文化遺産に登録された。
農林水産省が和食の定義を4つ掲げた。
1)多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
2)栄養バランスに優れた健康的な食生活
3)自然の美しさや季節の移ろいの表現
4)正月などの年中行事との密接な関わり
これらの要素があることが「和食」である。

日本の和食がユネスコ無形文化遺産に登録された4つの要素をヒントにして考えてみると分かるが、決して昆虫由来の粉を使用したイタリア料理であっては、絶対にユネスコに認められないだろう。

イタリア料理は、家庭の食卓で出される味と大衆による共通の帰属意識と良識を持って、さまざまな地域によって現実されてきたものであると思う。
それは、 自給自足経済から数年でイタリアの農業食品部門が世界記録を打ち破り、メイド・イン・イタリーの象徴と原動力になることができた。

是が非でも、イタリア料理がユネスコ無形文化遺産に登録されることを筆者は願っている。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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