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ラッシャー貴子|イギリス

脚光を浴びる日本文学の人気翻訳家、ポリー・バートン

フォイルズ書店ウォータールー駅店のウィンドウ。3月12日に発売されたポリー・バートン最新の訳書、柚木麻子著Hooked(『ナイルパーチの女子会』)は大型書店でも独立系でも大々的に宣伝されている。筆者撮影

先日、ロンドンの老舗書店フォイルズで開かれた国際交流基金の日本文学のイベントに参加した。日本から迎えた作家の柴崎友香とポリー・バートンの対談だ。

ポリー・バートンという名前を最近見聞きした覚えがないだろうか。柚木麻子の『BUTTER』が世界累計100万部以上、英国では45万部を売り上げて(2025年7月新潮社プレスリリース)話題になっているが、それを英訳したのが彼女だ。

この数年、英国では日本人作家の作品が大人気だ。2025年には、王谷晶の『ババヤガの夜』(サム・ベット訳)が英国推理作家協会賞(通称ダガー賞)翻訳小説部門を日本の作品として初受賞し、書店の目立つところに日本作家コーナーが設けられることも増えてきた。わたしがロンドンに移った20年前には、川端康成、三島由紀夫、夏目漱石、紫式部、村上春樹、大江健三郎を見かけるくらいだったので、ずいぶん流れが変わったものだ。

最初に変化に気づいたのは、2019年刊行の川口俊和著『コーヒーが冷めないうちに』(ジェフリー・トゥルーセロ訳)だった。発売直後から書店で平積みになったので珍しいとながめていたら、すぐにわが住宅街の読書会にも取り上げられ、これまでと違う勢いを感じた。同じ年の村田沙耶香の『コンビニ人間』(竹森ジニー訳)ペーパーバック版は、色違いの表紙(確か水色、ピンク、黄色)で売り出され、力の入ったマーケティングに驚いた。その後、小川洋子、川上未映子、川上弘美の名前も目立つようになり、最近では松本清張、横溝正史、雨穴、池波正太郎なども売り出されている。

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対談当日の様子。左からモデレーターのカーヤ・ムラウスカ、ポリー・バートン、柴崎友香、通訳。筆者撮影

冒頭で触れたBUTTER』人気は本当にすごかった。刊行された2024年の後半になると、鮮やかな黄色い表紙の『BUTTERを読む人を電車や町でずいぶん見るようになり、やがて書店や読者が選ぶBooks Are My Bag Readers AwardsBreakthrough Author賞を受賞し、大手書店チェーン、ウォーターストーンズの「2024年今年の1冊」に選ばれた。翌2025年には英国で最も権威ある文学賞のひとつ、The British Book AwardsDebut Fiction部門も受賞、日本の文学作品として初めてこの3冠達成となった。

20257月に来英した柚木麻子とポリー・バートンとの対談がロンドンであった時には、のんびり構えているうちにチケットが早々に売り切れてしまった。日本作家のイベントが売り切れるなんて初めての経験だったので、それまでになかった大きな波を感じた。

英国では『BUTTER』を書いた柚木麻子も有名だけれど、これを訳したポリー・バートンにもファンが多い。柚木自身もインタビューでたびたび、ポリーは日本の岸本佐知子や斎藤真理子のような人気翻訳家で、『BUTTER』の大ヒットはポリー人気にも支えられているのでは? と話している。

文芸翻訳家としてのポリーのこれまでの作品には、柚木麻子、柴崎友香のほか、松田青子窪美澄、山崎ナオコーラ、角田光代、温又柔、市川沙央、津村記久子、金井美恵子など同世代の現代女性作家を中心に数多い(リンクを貼ったものはウェブ上で発表されていて、今も読むことができる)。

ポリーは翻訳家であると同時に作家でもあり、すでに2作品を刊行している。デビュー作Fifty Soundsは日本語の擬音語(オノマトペ)を糸口にしたエッセイで、2019年Fitzcarraldo Editions Essay Prizeを受賞している。「キュキキュキ」なんていう不思議な音も紹介されて、知的でユーモラスな文体から彼女の感性と日本での暮らしぶりが浮かび上がる、大好きな作品だ(一部をここ(吉田恭子訳)で読むことができる)。

2作目のPorn: : An Oral Historyは、住む国や性に関するバックグラウンドがさまざまな知人、友人19人にポルノについてインタビューしたノンフィクション。名前ではなく数字で呼ばれる登場人物たちの人となりが、ポルノを語ることで見えてくる。

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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