コラム

ドローンの進化とテロリズム──イスラム国は市販の無人航空機を改造し3つの目的で使用

2025年04月11日(金)16時19分

【技術拡散の背景:アクセスの容易さと規制の限界】

イスラム国がドローンを効果的に活用できた背景には、いくつかの要因がある。第一に、商用ドローンの入手が容易になったことだ。アマゾンやeBayなどのオンラインプラットフォームを通じて、数千円から数万円で高性能ドローンが購入可能であり、国際的な物流網を通じて紛争地域にも流入している。

また、オープンソース技術の普及により、ドローンの制御ソフトや設計図がインターネット上で公開され、技術的知識を持つ個人でも改造が可能となっている。


一方で、国際的な規制は追いついていない。国連や各国政府は、軍事用ドローンの輸出規制を強化しているが、商用ドローンの流通はほぼ自由である。

例えば、2019年のサウジアラビア石油施設へのドローン攻撃では、イランが支援するフーシ派が関与したとされるが、使用されたドローンの部品は市販品に由来していた。この事例は、規制の網をすり抜ける技術拡散の現実を浮き彫りにしている。

【テロリズムへの影響:非対称戦の新たな局面】

ドローンの進化は、テロリズムにおける非対称戦の様相を変えた。従来、テロ組織は自爆テロや銃撃戦に依存していたが、ドローンを用いることで、遠隔地からの攻撃が可能となり、実行者のリスクが大幅に低減した。

また、低コストであるため、限られた資金で多数の攻撃を仕掛けることができ、正規軍に経済的負担を強いる。これは、軍事大国が保有する高価な防空システムとのコスト効率の差を際立たせる。

さらに、ドローンの小型化とステルス性の向上は、検知と迎撃を困難にしている。中東地域ではドローンが「現代のカラシニコフ」と称されるほど普及し、紛争の潮流を変えている。この比喩は、かつてのAK-47がその単純さと信頼性で革命勢力に広まったように、ドローンがテロ組織にとって手軽で強力な武器となりつつあることを示唆している。

プロフィール

和田 大樹

CEO, Strategic Intelligence Inc. / 代表取締役社長
専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story