コラム

「諸刃の剣に...」アルカイダやイスラム国に忠誠を誓う世界各地の武装勢力の皮算用

2025年03月11日(火)18時10分

だが、その約半数が外国人戦闘員との情報も)と呼ばれる武装組織を結成し、アルカイダのシリア支部として活動を開始した。シリア解放機構はフッラース・アル・ディーンの弱体化のため、多くの幹部やメンバーを殺害、拘束し、結局のところアルカイダのシリア支部は地域勢力との対立により弱体化した。

しかし、最大のリスクは地域住民からの反発と孤立だろう。過激な統治手法や暴力的な戦術は、住民の生活を圧迫し、支持を失うリスクを高める。イスラム国がシリアやイラクで支配地域を拡大した際、公開処刑や過酷なシャリーア法の適用は、一部の住民に恐怖と敵意を生んだ。


2016年のモスル解放作戦では、地元住民が連合軍に協力し、イスラム国に対する情報提供を行ったことが勝利の鍵となった。同様に、アフガニスタンでイスラム国ホラサン州がタリバンと敵対する中で、地元部族からの支持を失い、孤立を深めているケースも見られる。

このような反発は、長期的な支配を困難にし、勢力の衰退を加速させよう。

結局のところ、長期的にはマイナスか

イエメンを拠点とするAQAPは、アルカイダの主要な支部として、長年にわたり国際的な注目を集めてきた。利点として、アルカイダのブランド力を背景に、2015年のシャルリー・エブド襲撃事件や2009年のデトロイト航空機爆破未遂事件など、欧米を標的としたテロを計画・実行し、資金と戦闘員を獲得してきた。

また、イエメンの内戦に乗じて南部地域での支配を拡大し、税収や密輸で資金を確保するなど、地元での基盤固めにも成功した。

しかし、リスクとしては米国による執拗なドローン攻撃が挙げられる。2020年のカシム・アルリミ殺害をはじめ、指導者が次々と標的となり、組織の指揮系統が混乱に陥っている。

また、アルカイダが掲げる遠い敵戦略の重要性を共有しつつも、まずはイエメンにおける土着活動を通じて安定的な立場を堅持する必要があり、戦略的な矛盾や内部対立が生じている。

さらに、アフガニスタンを拠点とするイスラム国ホラサン州は、イスラム国への忠誠を背景に、2010年代後半から急速に台頭したが、利点として、2014年のカリフ宣言以降のイスラム国の勢威を活用し、タリバンに対抗する勢力として注目を集めた。

2021年8月のカブール空港自爆テロは、国際社会に衝撃を与え、若者や過激派を引きつける象徴的な攻撃となった。リスクとしては、タリバンとの敵対関係が激化し、アフガニスタン内で孤立する危険性が高まっている。

プロフィール

和田 大樹

CEO, Strategic Intelligence Inc. / 代表取締役社長
専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平の進展期待 ゼレンスキー

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア停戦を評価 相互信頼再構

ワールド

米ロ首脳が電話会談、両氏は一時停戦案支持せずとロ高

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story