コラム

AIはだませる?──サイバーセキュリティにAIを使う期待と不安

2018年07月02日(月)16時30分

サイバーセキュリティ複合施設

イスラエルでサイバーセキュリティ産業が活発なのは、国民皆兵制度によって男性は3年、女性は2年、大学に入る前に軍務に就き、その過程でサイバーセキュリティに触れる若者が多いからだ。軍務で才能を見いだされた人は大学でさらにその腕を磨き、やがてスタートアップ企業を立ち上げる。失敗も多いが、米国西海岸のシリコンバレーのように失敗を許容する文化がイスラエルにもあり、若者たちはどんどんチャレンジしていく。

tuchiya03.JPG

ベングリオン大学併設のサイバーセキュリティ複合施設の一棟

ベングリオン大学でサイバーセキュリティを教えるユーヴァル・エロヴィッチ教授は、駅の向こう側にあるベングリオン大学の古いキャンパスから、サイバーセキュリティ複合施設の一角に拠点を移し、内外の企業から多額の資金を受け入れながらラボを運営している。

エロヴィッチ教授が取り組んでいるのは、いわゆるサイバーセキュリティだけではなく、電子戦にも応用できそうな情報空間と物理空間の複合領域である。彼のラボの研究成果は欧米のメディアでも広く取り上げられている。

例えば、飛んでいるドローンが自分の家を覗いているかどうか分かる技術や、まったくネットワークに接続されていないコンピュータのキーボード入力を、FM周波数を使って盗み見る技術といったもので、映画の世界に出て来そうである。

AIはまちがえる

軍で7年間を過ごしてから学界に入ったエロヴィッチ教授は、日焼けした肌とランニングで鍛えた細身の体を保持している。来日したときにも都内でランニングをし、日本の巨大なカラスに驚いたと笑っていた。

エロヴィッチ教授は、AIとの関連でビッグデータは確かに有用であるという。例えば、どうやってポケットから携帯電話を出すかという行動のデータを大量に集めて解析したところ、携帯電話の持ち主が男か女かは簡単に分かるようになったそうだ。携帯電話からいろいろなデータを集めると、持ち主がたばこを吸っているかどうか、パブでどれくらいのアルコールを飲んだかまで推測できるようになる。

エロヴィッチ教授との議論で最もおもしろかったのは、AIはだませるということだ。AIが各所で使われるようになれば、悪者ハッカーたちは確実にAIを騙すことを考えるようになると教授は指摘する。深層学習のプロセスを騙すことはとても原始的なやり方だともいう。我々は、いったん便利なツールを使い始めると、その良いところしか見えなくなる。そこを悪者ハッカーたちは突いてくる。

エロヴィッチ教授は、自分は実践的な人間であり、〇か×かの極端な議論は嫌いだという。AIを使うときには、その限界を理解することが必要だというのが彼の主張だ。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アラビカ種コーヒー豆、米関税で価格高騰=ブラジル業

ワールド

インド外相 対米貿易交渉に「譲れぬ一線」 米代表団

ワールド

チベット巨大ダム、乾季にインド主要河川の水流が最大

ワールド

HSBCスイス子会社、中東の富裕層顧客1000人超
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 3
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    株価12倍の大勝利...「祖父の七光り」ではなかった、…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story