コラム

お金を配っても止まらない少子化──問題は「子育ての楽しさ」をメディアが報じないこと

2022年12月07日(水)15時25分
西村カリン(ジャーナリスト)
子育て

MONZENMACHI/ISTOCK

<子育て支援策が整備されても少子化問題が解消されないのは、つらい経験や経済的リスクばかりが取り上げられ、子育てのポジティブな面が取り上げられないから>

日本の少子化問題は40年前から続いている。その原因は親になりたい人の経済力が足りないことや、将来への不安だとよく言われる。確かに、経済力がないと子供を持つのが大きなリスクであることは理解できる。

ただ、数十年前から政府は対策を取っているし、特に経済支援はここ数年ほどで良くなったと言えるだろう。もちろん、まだ足りないと思う人は少なくない。

例えば、国が出産費用を100%負担してくれれば、子供は欲しいが出産などの費用が高すぎると考えている夫婦にとってはインセンティブになると思われる。

「子育てについては、フランスの経済支援のほうが手厚い」と私に言う日本人は多いが、必ずしもそうではない。

日本では子供手当がある以外にも、医療費助成のおかげで15歳までは医療費が無料の自治体も多い。ランドセルの購入支援をするところもあるし、国公立の小学校の給食は安い。少なくとも、小さい子供たちのための支援策は十分だ。

それでも少子化が止まらない。むしろ年々悪化する一方だ。結果的に、政府はさらにお金を配ることを考えている。私はそうした支援に反対する立場ではないけれども、今までと同じ考え方でいくらお金を配っても、少子化の問題は解決されないと思う。

理由の1つは、対象が小さな子供中心であり、教育費用がかかるようになる15歳以降への支援が足りないこと。もう1つはパンデミックや気候変動、戦争といった社会状況から、経済力があっても子供をつくりたくない人が増えているから、である。

つまり子供をつくらないのはお金の問題より、人生の選択かもしれない。「子供を持つことが人生の最大の目的で、最高に幸せな人生の源」という神話を否定し、子供のいない人生を選ぶのも一つの選択肢だ。

日本がなぜこれほど少子化社会になったのかが完全に分析されない限り、当然ながら、どんな対策を取っても効果がない。

日本総研の池本美香上席主任研究員に意見を聞いたところ、「日本で子供を育てている人や、子供自身が幸せそうに見えないというのが一番の少子化の原因ではないかと思う」という答えが返ってきた。

「例えば、バスに乗るときにベビーカーを乗せると嫌な顔をされるなど、つらい経験をたくさん見聞きして、子育てが楽しそうに見えない。こういう子育てがしたい、というイメージが持ちにくくなっているのではないか」

もし池本さんの分析が正しいなら、今までの対策が効かないのは当然だ。今の日本社会は子供に対しても、親に対しても優しくない。それを見ている若者がそんな人生は経験したくないという気持ちになり、子供を産まない選択をしてもおかしくない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシア中銀、予想外の利上げ 通貨支援へ「先を

ビジネス

超長期中心に日本国債積み増し、利回り1.9%台の3

ビジネス

中国不動産の碧桂園、元建て債3銘柄の初回支払い延期

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story