コラム

「海外メディアは忖度しない」は本当か?──注意すべきは「情報源」

2022年08月19日(金)13時59分
西村カリン
号外

KIM KYUNG HOONーREUTERS

<「海外メディアのほうが良い」と考える日本人は多いが、「すごい情報」なら間違っていてもいいという外国メディアもある。日本語での裏取りに時間がかかり速報性で勝負できないからこそ、正確性を重視すべき>

7月8日、奈良市で安倍晋三元首相が銃撃された事件は、世界中のマスコミにとって実に大きなニュースだった。現場にいたNHK記者のおかげで、私のスマートフォンにも速報が届いた。私はフランスの公共ラジオ放送局「ラジオ・フランス」の特派員として、直ちに国際編集部に連絡した。

「まだ情報が少ないけれど、日本のメディアによると安倍元首相が銃撃されたらしい」

その後、「心肺停止状態とも報道されている」とも伝えた。残念なことに約5時間半後、安倍元首相の死亡が確認された。

われわれ日本にいる外国特派員が選挙取材で地方に行くことは少なく、今回も現場に特派員はいなかった。そんなときは日本のメディアの情報に頼ることになる。私もいくつかの理由から、奈良には行かなかった。

やがて、その場で逮捕された山上徹也容疑者に関する報道が始まった。特に注目されたのは本人の動機だ。言うまでもなく記者が本人に聞くことはできないから、全ては警察からの情報に基づく。夕方頃から日本のメディアは次のように報じた。

「『特定の宗教団体に恨む気持ちがあった。安倍元首相が(その団体に)近いので狙った』という趣旨の供述をしていることが捜査関係者への取材でわかった」(朝日新聞)

その日、外国メディアは日本での報道に基づいて記事を書いた。ほとんどの場合、警察は外国記者には話をしないからだ。

大手メディアは「特定の宗教団体」の名称を報道しなかった。ただ、SNSなど一部で「統一教会」という情報が流れた。それでも、私はその情報を使うことはできないと判断した。自分で直接確かめようがなかったからだ。情報源の信憑性を確認できず、証言や証拠もなかった。

もし警察が「特定の宗教団体とは世界平和統一家庭連合(旧統一教会)だ」と日本のメディアに言ったなら、なぜそれが報道されなかったかが大きな問題になる。ただ警察が知らせなかった場合、名称を報じなかった判断は正しいと私は思う。

それでも、複数の外国メディアは早い段階で「統一教会」と報じ、それを見た一部の日本人は「外国メディアのほうが忖度せずに事実を書いている」とSNSに投稿し始めた。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story