日本政府こそが責任感を持つべき...「産業化」した東南アジア特殊詐欺を「根絶」できない理由

VICTIMS AND PERPETRATORS

2025年4月25日(金)17時10分
イバン・フランチェスキーニ(豪メルボルン大学講師)、リン・リー(ベネチア・カフォスカリ大学博士号候補生)、マーク・ボー(リサーチャー、東南アジア在住)

この摘発はカンボジア政府に言わせれば大成功だったが、詐欺集団の活動を抑え込むことにはならなかった。

私たちのうちの1人は当時シアヌークビルにいて、大規模な詐欺拠点から何十人もの人々が出て行くのを目撃した。彼らは荷物を手に粛々とバスに乗り込み、バスは2台のSUVに守られながら車列を組んで出発した。取り締まりについて前もって知らされていたのは明らかだった。


地元の大物とずぶずぶの関係

ミャンマーの北部と東部にある詐欺拠点については、地元警察と中国とタイが協力して摘発を進めようとしている。そのあおりでカンボジアにおける詐欺集団の活動が再び活発化するとの見方もあるが、そもそも前回の摘発で詐欺集団はカンボジアからいなくなったのだろうか。

ミャンマーで摘発が相次ぐ前から、カンボジアの農村地帯では大型の新しい拠点がつくられていた。ホテルが詐欺拠点につくり替えられたとか、以前からあった拠点が規模を拡大したといった話も伝えられている。

長期的かつ根本的な対策を取らず、たまに取り締まったところで詐欺の根絶にはつながらないのだ。カンボジアやミャンマーやラオスといった国々は、当局の腐敗、警察力の弱さ、国境を越えた移動が容易という条件がそろい、詐欺集団にとっては理想的な環境だ。

さらに、詐欺集団は地元の有力者の庇護下にある。ミャンマーでは軍事政権と手を組んだ民兵組織が、カンボジアでは与党に近い大物たちが詐欺師を守っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中