最新記事
キャッシュレス

キャッシュレスに消極的...もっぱら「現金派」のドイツ人、背景には驚くべき理由が

“Only Cash Is True”

2023年9月28日(木)14時00分
アンチャル・ボーラ(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)

「犯罪を助長」は誤り

一方、現金主義は地下経済を蔓延させるとよく言われるが、大半の専門家は誇張に近い議論だと語る。技術評価局の報告書は、スイス、オランダ、フランスなど現金払いの少ない国は現金使用率の高いスペイン、イタリア、ギリシャなどに比べて地下経済が活発ではないと指摘しているが、一方で現金の使用が少ないスウェーデンの地下経済は「中規模」であり、現金使用率が比較的高いオーストリアとドイツの地下経済は相対的に小さいという。

ドイツ連銀が19年、オーストリアのヨハネス・ケプラー大学(リンツ)のフリードリヒ・シュナイダー教授(財政学)と共同で行ったドイツにおける「不正な現金使用」の研究によれば、より詳細な分析を行わない限り「価値の保存手段として合法かつ正当に自宅で保管される紙幣と、不正な紙幣を区別することは不可能」だ。ドイツ人は平均1300ユーロ以上を自宅または貸金庫に保管している。

「地下経済の規模はGDPの2~17%と推定される」と、この研究報告は指摘する。「この数字だけでも、地下経済の研究は平均以上の不確実性を伴い、慎重な解釈が必要であることが分かる」

「現金は地下経済を助長していないし、その原因でもない。原因は税負担や規制などだ」と、シュナイダーは語った。

税負担が重ければ重いほど、脱税の強い動機付けになると、シュナイダーは言う。現在は「多額の現金で国外に銀行口座を開設するのが極めて困難」になっているので、現金主義と脱税の関連性は以前のほうが強かったと、彼は述べている。

ノイベルガーは、現金よりもデジタル通貨を使った犯罪行為のほうがはるかに多いと主張する。「現在、違法な薬物取引の理想的な媒介手段は現金ではない。アマゾンのギフトカードだ。この種のギフトトークンは世界中どこでも匿名で支払いが可能であり、現金と違って対面取引を必要としない」

ドイツ連銀のブルクハルト・バルツ理事は取材に対し、政府は現金使用を減らす施策を取っていないと指摘した上で、現金は「停電やソフトウエアのエラーなどでキャッシュレス決済が一時的に使えなくなった場合の優れたバックアップ手段になる」と語った。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

対日関税で米大統領令、自動車2週間以内に15%に 

ビジネス

午後3時のドルは148円前半へ下落、米雇用統計待ち

ビジネス

対日関税で米大統領令、自動車2週間以内に15%に 

ワールド

タイのタクシン元首相、ドバイに到着と投稿
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 7
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 10
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中