最新記事
習近平

「軍拡」習近平が苦しむコロナの悪夢...あえて物騒な行動を取る納得の理由

XI’S SWORD OF DAMOCLES

2023年6月26日(月)12時30分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
習近平

虚勢の裏に(写真は北京の中国人民革命軍事博物館) FLORENCE LO-REUTERS

<中国は、1980年代後半の旧ソ連と同じような窮地に追い込まれる>

ここ最近、中国は東アジアで広く軍事力を見せつけ、近隣諸国を怯えさせ、友好的になりそうだった国々を遠ざけている。一方で、中国経済には人口動態の悪化や不良債権の増加など構造的な問題がのしかかり、新型コロナウイルスのパンデミックの打撃から回復しようと悪戦苦闘している。

台湾を侵略すればアメリカと日本を巻き込んだ全面戦争になりかねないことも、中国がおとなしくしていればアメリカはコストのかかる危険な衝突を仕掛けてこないことも、習近平(シー・チンピン)国家主席は十分に承知している。それなのになぜ、あえて物騒な行動を取るのか。

答えは、不安でたまらないからだ。

国際世論は先進国も途上国も中国への反発を強めている。主な理由は世界で何百万人もの命を奪い、その100倍以上の人々を苦しめてきた新型コロナだ。英タイムズ紙は6月10日の調査報道で、新たに解読された証拠を基に、この強力なウイルスが中国の生物兵器研究プログラムから最初に流出したという判断は、合理的かつ科学的に疑いの余地がないと強調している。

国際社会の反発が中国に新型コロナの賠償を求める声に転じれば、「八カ国連合軍」以来の危機が到来するかもしれない。1900年、義和団の乱の最中に包囲された北京の公使館地区の解放を理由に、列強8カ国の連合軍が侵攻した。和議交渉で清朝は巨額の賠償金を背負い、求心力を失って1912年に滅亡した。

実際、2020年半ばに中国に賠償を求める動きが出始めたとき、中国メディアは八カ国連合軍の再現だと批判した。

今年3月にトランプ前米大統領は、中国にパンデミックの責任を取らせるという20年の大統領選での公約を、再び持ち出した。賠償金の概算は60兆ドル。中国のGDPの4倍近くに相当する。根っからのビジネスマンであるトランプは、新型コロナへの報復は中国に対する最も低コストなゲームチェンジャーであり、世界からの支持を利用できると分かっている。

習は中国に迫る詳細不明の存亡の危機について、いかにも恐ろしげに繰り返している。21年7月の演説では、中国を「いじめようとする外国勢力」に対して「頭破血流(頭をぶつけて血を流すことになる)」と警告した。

22年11月には中国軍に、安全保障がますます不安定になるなかで「戦争の準備に専念」するよう命じた。今年5月には「極限思維(最大限の備えをする考え)」を堅持せよ、「強風や波立つ海、危険な嵐」にも耐えられるよう準備せよとげきを飛ばした。

東京アメリカンクラブ
一夜だけ、会員制クラブの扉が開いた──東京アメリカンクラブ「バンケットショーケース」で出会う、理想のパーティー
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、インフレ高止まりに注視 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中