最新記事
ロシア

自軍の無駄死にもお構いなし──傭兵部隊ワグネル、比類なき残虐の理由とは?

BUILDING A CRUELTY BRAND

2023年4月18日(火)13時40分
ルシアン・スタイヤーノ・ダニエルズ(米コルゲート大学客員准教授、軍事史家)

身内に対する残虐性は歴史的にも興味深いが、ワグネルはそれを利用して自らのブランド構築に利用しているようにも見える。その象徴が、拷問や処刑の道具に使われる大型ハンマー「スレッジハンマー」だ。

ワグネルのメンバーがシリア軍からの脱走兵をスレッジハンマーで殺す様子を動画にして以来、この道具はワグネルとその支持者の象徴となり、また復古的なロシア民族主義者のシンボルともなっている。

ワグネルのメンバーは最近、ウクライナ側に寝返ったという理由で55歳の兵士エフゲニー・ヌジンをハンマーで拷問し、殺害する様子を自分たちで撮影し、公開している。

ワグネルのおかげで、スレッジハンマーはロシアで有名になった。自らハンマーを振り回す姿を写真に撮らせる政治家もいる。そうした写真や動画が伝えるものは何か。「ワグネルは残酷で、身内に対する残酷さは、もちろん敵に対しても発揮される。ワグネルの戦闘員はタフであり、ひいてはロシア人全体もタフだ」というメッセージだろう。

ロイターの取材に応じたワグネルの戦闘員は、プリゴジンに徹底して忠実だった。4人まではプリゴジン自身にスカウトされていた。金と権力者との個人的関係がものをいう社会では、最も強力なパトロンに従うのが賢い選択ということになる。それに、ワグネルが身内に対して残酷だと言っても、それはロシア政府軍も同じだし、ウクライナ東部を占領する分離主義者も同じだ。

今のワグネルも、多少なりと昔ながらの傭兵気質を引きずっている。だが不気味なのは、それが21世紀のグローバル化の波に乗って新たな国境なき軍隊へと変身しつつある点だ。一方で国民国家の枠組みは揺らぎ始め、古い政治体制と似て非なる何かへと変貌を遂げつつある。古くて新しい現代の傭兵部隊は、そうした変化の落とし子と言える。

ワグネルはシリアやアフリカで、そして今はウクライナで、その残虐性を世界中に見せつけている。後ろめたさのかけらもない。今やその名は、世界に冠たる国境なき軍隊の超一流ブランドなのだから。

From Foreign Policy Magazine

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏企業への補助金削減、DOGEが検討すべき=

ビジネス

消費者心理1.7ポイント改善、判断引き上げ コメ値

ビジネス

仏ルノー、上期112億ドルのノンキャッシュ損失計上

ワールド

上半期の訪タイ観光客、前年比4.6%減少 中銀が通
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中