最新記事

シリア

残酷な内戦と大地震に揺さぶられて...シリア援助に見る国際社会の重要な課題

Trapped by Assad

2023年2月14日(火)11時40分
チャールズ・リスター(米「中東問題研究所」上級研究員)
被災者

反体制派支配地域の都市ジャンダリスで救助された少女(2月6日) KHALIL ASHAWIーREUTERS

<深刻な人道危機のさなか、反体制派地域を襲った天災、忘れられた被災者を今すぐ援助するために>

2月5日夜、内戦が比較的落ち着いているなか、シリア北部の住民は眠りに就いた。翌日早朝、一帯でおよそ100年ぶりの大地震に見舞われるとは予想もせずに──。

シリアで政府軍と反体制派の戦いが始まってから約12年。バシャル・アサド政権は手に入る武器をほぼ全て使って、自国民を攻撃してきた。だがその破壊の規模も、トルコ南東部を震源とする今回の地震が、シリア北西部にもたらした甚大な被害にはかなわない。

シリア国内の死者数は、これまでに3300人以上に達した(2月10日時点)。瓦礫の下には、まだ膨大な数の人が閉じ込められている。

【動画】「希望の象徴」大地震の129時間後に発見された赤ちゃんの笑顔

反体制派支配地域であるシリア北西部の住民は、とりわけ脆弱な立場に置かれている。

地震前、同地域は世界で最も深刻な人道危機の1つのさなかにあった。住民約450万人のうち、300万人近くがキャンプなどで暮らす国内避難民で、インフラ設備の少なくとも65%が破壊されるか、損傷している。住民の90%はトルコ経由の人道支援が頼みの綱だが、援助目的での越境が認められている地点は、トルコとの国境にあるバブ・アル・ハワの検問所だけだ。

国境を越える大規模な援助活動は国連が調整している。かつては許可された越境ルートが4つあったが、国連安保理常任理事国のロシアが拒否権を行使したため、そのうち3つが閉鎖。ロシアは近年、バブ・アル・ハワの閉鎖に動く構えも見せており、人道上の大惨事になりかねないと、国連の援助団体やNGO(非政府組織)は警告している。

今回の地震で、そのバブ・アル・ハワは機能停止を強いられている。同地点とトルコ国内を結ぶ唯一の幹線道路が大きな被害を受け、国連は援助活動の基盤を失った。

追い詰められたアサド

まさに悪夢のシナリオだ。世界最悪レベルの人道危機にさらされる人々を、破滅的な天災が襲った。厳寒の中、身を寄せる場所のない被災者に援助を届けるすべもない。

【動画】被災し体を寄せ合って温め合う犬と猫

国際社会は被災国の1つのトルコに対し、大規模な支援を申し出ている。正しい行動とはいえ、相変わらずシリアは「付け足し」でしかないようだ。アメリカが支援するシリアのNGOが被災地で活動しているとジョー・バイデン米大統領は述べたが、それだけでは十分でない。

現地NGOの代表格である英雄的なシリア市民防衛団(SCD)、通称ホワイト・ヘルメットのボランティア要員はおよそ3000人。地域人口450万人に比べて、あまりに少ない。しかもSCDは大地震ではなく、内戦下の空爆に対応する救助活動などのために設立され、資金提供を受けている組織だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中