最新記事

中国

中国「ゼロコロナ放棄」の冷徹さは毛沢東にルーツがある

IS XI “LYING FLAT”?

2023年1月31日(火)17時21分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
毛沢東

長征の最中、馬に乗って移動する毛沢東(1935年) PICTURES FROM HISTORYーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

<習近平は自慢の「ゼロコロナ政策」の崩壊に無力感を抱いているのではない。自分と中国共産党を守るために全人代に合わせて集団免疫獲得に照準を合わせただけ>

あの厳格無情なゼロコロナ政策を、習近平(シー・チンピン)は何の予告もなしに放棄した。これには世界中が驚愕した。

公衆衛生や経済面の影響に対する備えはゼロ。しかも中国政府はmRNAワクチンの無償供与という諸外国の申し出を拒否。国内各地で猛烈な感染拡大が報告されていたのに、経口抗ウイルス薬「パキロビッド」の購入に関する米ファイザーとの交渉も打ち切った。

もしかして習近平は自慢のゼロコロナ政策の崩壊で無力感を抱き、多くの若者たち同様に努力せず怠惰な「躺平(タンピン、寝そべり)主義」に陥ったのではないか。そんな観測もあった。

しかし中国共産党に関する限り、いかなる作為にも不作為にもディープな戦略的理由がある。それは何か?

答えは、ほぼ明らかだ。中国政府筋のさまざま発言を読み解けば分かる。今の習近平には新しい目標がある。可及的速やかに最大限の集団免疫を確立し、全国人民代表大会(全人代)が始まる春までに経済を再び軌道に乗せることだ。

この「快速過峰」(速やかに感染ピークを越える)の目標は達成できそうだ。早くも一部の地方政府からは、住民の感染率(自然免疫獲得率)が80~90%に達したという報告が届いている。

これを全国に広げれば、習は全人代の場で勝利を宣言でき、3期目の国家主席就任に花を添えられる。これが習近平の新戦略。そう考えれば、一連の事態も説明がつく。

ワクチンの供与を拒んだのは、そんなものは無用だから。ワクチンの接種には何カ月もかかるが、それでは全人代に間に合わない。感染力の強いオミクロン株を野に放つほうが手っ取り早い。

でも、それで100万以上の死者が出たら経済にも悪影響があるのでは? いや、ご心配なく。死ぬ人の大半は高齢者や慢性疾患を抱えた人だから、むしろ中国経済にとってはプラスになる。

高齢化の進展に伴う不都合な現実を瞬時に解決でき、医療費の大幅な節約にもつながる。むろん、抗ウイルス薬も要らない。重荷や負担にしかならない人々の延命に、中国共産党は貴重な資金をつぎ込んだりしない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国万科の社債37億元、返済猶予期間を30日に延長

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 30日に

ビジネス

先行きの利上げペース、「数カ月に一回」の声も=日銀

ビジネス

スポット銀が最高値更新、初めて80ドル突破
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中