最新記事

宗教2世

伝道に連れ回され、教義のために学校で孤立 自己決定権を蔑ろにされる宗教2世の実情

2022年12月2日(金)11時15分
荻上チキ(評論家、社会調査支援機構「チキラボ」代表)
孤立する宗教2世のイメージ

(写真はイメージです) bee321-iStock

<社会調査支援機構チキラボが宗教2世1131名を対象に行った調査には、子どもの頃に納得できないまま伝道活動や会合に参加させられたり、教義と社会の間で苦しんだ経験談が数多く寄せられた。いま声を上げる当事者たちが求める支援の内容とは>

いま注目される宗教団体からの「被害者救済法」。この政府案に対し、抗議の声が続いている。

11月21日には全国霊感商法対策弁護士連絡会が、23日には旧統一教会の元2世信者たちが記者会見で苦言を呈した。一言でまとめると、「政府案では当事者の救済に役立たない」という内容である。

現在の政府案では、献金上限の設定が緩すぎ、家族の取消権の範囲はあまりにも狭い。また、集団心理を利用したマインドコントロールなどによって「自発的に寄付したいと思わせること」についての制限は想定されていない。

さらには、当事者たちが求めている「宗教的虐待」に対する対応は、まだまだ入り口にすら立てていない。

立憲民主党など野党は「『統一教会』国対ヒアリング」を開催し続け、当事者、弁護士、研究者らの声を吸い上げようとしてきた。与党・政府にも同様のことは可能なはずだ。連続公聴会やパブリックコメントなど、できることは多くある。これ以上当事者たちを矢面に立たせ、多大な負担をかけないよう、政府は本腰を入れて動いてほしい。

親や教団から安全に離れられる仕組みが必要

では、2世たちはどのような支援を求めているのだろうか。当事者たちから要望されている事項は、全体のまだ一部にすぎない。社会調査支援機構チキラボで行った当事者調査では、多くの2世がさらに複数の支援項目の充実を求めていた。

旧統一教会に関する議論では、解散命令や献金上限などが特に注目されるが、最も多かったのは「子どもでも親や教団から安全に離れられる制度の整備」であった。すなわち、宗教的虐待を経験することなく、「信じない自由」を実質的に確保できるような社会制度であった。

また、法律相談や自助グループなど、宗教について相談できる、家や教団以外の場所を求める回答者の割合も高かった。どのような家に生まれようと「繋がり直せる社会」が切望される。そのためのライフラインを作ることは急務だと言えるだろう。

chiki221201_chart.jpg

「宗教2世」当事者の実態調査より 提供:社会調査支援機構チキラボ

ところで、「子どもでも親や教団から安全に離れられる制度の整備」とは、どのようなものが現実的だろうか。

自助グループを開催し続けている京都府立大学准教授の横道誠氏は、「現実味がないのは分かっているが」と断りつつも、しばしば「宗教参加をR-18指定にしてほしい」と述べている。

このアイデアは突拍子もないことだろうか? そうとも言えない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、薬価引き下げへ大統領令署名 専門家は実

ビジネス

米財政黒字、4月は23%増の2580億ドル 関税収

ビジネス

米国株式市場=大幅高、米中関税引き下げ合意で ダウ

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸、米中合意で景気懸念が緩和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 8
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 9
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中